かくれんぼ、その単語をきくのは久しぶりで、それを自分の彼女からきくのは初めてだった。

「かくれんぼ、しよ」

ちょっと待て、こいつは何を考えてるんだ?今オレは見た通り練習中だろ、あれこいつこんなに空気の読めない、というか場の雰囲気の分からないやつだったか?とりあえず断った。彼女はしょんぼりうなだれ、下を向いた。悪いことはしたと思ったが、でも仕方のないこと。納得してくれたのか、名前は顔を上げてオレを見た。

「かくれんぼ、しよ」

え?今オレ断ったよな?疑問に思いながらももう一度断る。彼女はさっきと同じ、しょんぼりうなだれて、下を向き再び顔を上げた。

「かくれんぼ、しよ」

おかしい。

「おーい何してんだ風丸!早くボール!」

円堂の声が聞こえて現実に引き戻される。そうだった、ボールを持って円堂に返事をしようとした瞬間、彼女の声がオレの耳元で聞こえた気がした。

「十秒経ったら探しに来てね」

いやに鮮明ではっきりとした声だった。風丸?と円堂が首を傾げこちらを見るが、オレはすまないと謝ってボールを円堂に蹴り返した。






名前とは二、三ヶ月前から付き合いだした。中学生の恋なんて幼稚だ、と馬鹿にする大人に反して、オレたちは予想以上にうまくいっていた。名前が可愛くて仕方なくて、何度もキスしたいなんて考えてその先も…とぐるぐる無限ループしていた昨日が、今は絵本で読んだ物語かと思ってぼんやりしてしまう。夢の中に立ってる感覚、草がさわさわとそよぐ音もどこか遠くから聞こえてくる。

オレはちゃんと目を閉じて十秒数えて名前を探し出した。探す側としては十秒は長く感じるが、隠れる側は十秒でどこかに身を潜めるのは難しい。と思って付近を探してみたのだが見つからなかった。名前ってそんなに足速い方じゃなかったよな?

「おかしいな…」

一人ぼそりと声を漏らして、グランドからかなり離れたことに気がついた。静かだ。まだ五時過ぎで生徒はいるはずなのに、校舎裏にはこんなに寂しい空間があるのか?
名前が見つからない。オレに絶対見つからないんだと、かなりの自信と勝算を持って挑んできたのか。かくれんぼにこんなに真剣になったのはまた初めてだった。そろそろ部活に戻らないとやばいかな。少しだけ抜けるって言って来ちゃったし、変に探されたらそれはそれで困る。校舎裏は諦めて、軽く中を見てみるか。その時だった。

「風丸くん?」

探していた声がして、オレは振り返るとまずみっけ!と叫んだ。叫ばなくてもいい距離にいた名前はオレの声に驚いた顔をする。

「ごめんごめん。でもやっと見つけたぜ」
「は…?」
「お前、隠れるの意外に上手いな。ただのかくれんぼなのに真剣に探しちゃったよ」

そこでオレはおかしなことに気づく。彼女はとても不思議そうにオレを見ているのだ。

「どうした?」
「…風丸くん、誰とかくれんぼしてたの?」
「名前とだよ。さっきかくれんぼしようって言ってきただろ?」
「私、そんなこと言ってないし、放課後一度も会ってないよ?…風丸くんと」

言われたことがよく分からなかった。名前は嘘をつくタイプじゃないし空気も読めるからそんな馬鹿なことは言わない。だけどオレだって彼女に変な言いがかりはつけない男だ。名前が心配して、風丸くん?とオレを呼んだ。

 

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