(……あれっ)

乗ってすぐ異変に気づいた。いつもこの時間帯は軽いラッシュになるのに、オレしか車両に乗らない日なんて存在するのだろうか。

「閉まる扉にご注意ください」

ドアが閉まった。電車はゆっくりと動き出す。オレは一番端に座った。
オレの乗った車両は進行方向から見て一番後ろだしな、(ちなみにオレの座った場所も)こんな珍しい日があってもおかしくないのか。腑に落ちないが納得する他ない。周りをもう一度見渡して何気に車両室を覗き込んでみた。

(……!!)

いない。いるはずの車掌さんが影も形も見当たらない。嘘だろ、と立ち上がって中を覗き込むが、やはりそこに車掌も何もいなかった。

(…きっと乗り忘れたとかそんなんだろう)

今頃駅で怒られてるかなんかだ、そうだ絶対そうだ。言い聞かせるように自分に呪文のように呟く。それにしても人の気配がまるで無い。この車両にもちろん人はいないわけだが、向こうの車両にも人の気配が無いように思う。オレは座らずにそのまま前に歩き出した。貫通路がやけに長い。前の車両の中が見える程まで歩いた時、足を止めた。

いないのだ。向こうの車両にも。

「…嘘だろ」

呟いて、車両の間を跨ぐ。間違いない、誰もいない。どうなってる?オレは再び歩き出した。次の車両には乗っているだろう、今のはすごい偶然だったとしても、流石に三両続けて人っ子一人いないことは、………いない。

それから次へ次へと誘われるように前の車両へ移動するが、誰もいなかった。最後の車両に差し掛かる。

(いてくれ!)

偶然と偶然が織り成す奇跡、の域を十二分に越えている。電車の中に乗客は、オレ以外一人もいなかった。見落とすなんてもちろん有り得ない、その時アナウンスが流れた。

「この電車は止まりませんのでご注意ください」

 

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