「え、休み?」 成神くんは紙パックを持ち沈黙のままに返事した。「朝、廊下で佐久間先輩に会ってそう言われた」源田先輩が休みだなんて珍しい。昨日は全然具合悪いようには見えなかった。昨日の夜はそんなに寒くなかったし、雨も降らなかったから体は冷えなかった。日頃の疲れがたまっていたのか。何にせよ心配だ。 「でも、何かおかしいんだって」 「え、何が?」 「昨日の夜メールが来たらしくて、電話かけたら熱が出たって言われて、でも…具合悪い感じがしなかったって」 先輩が仮病を使うなんてありえないだろう。佐久間先輩ならやりかねないが。「具合悪くなさそうだったなんてありえないよ。だったら源田先輩は休まないと思う」「それは俺も思った。佐久間先輩は落ち込んでるようにも感じたって」落ち込む? 「何で落ち込んでるの」 「よくは知らねえ。ただその印象の方が強かったらしい」 私は頭の中で源田先輩のデータを起こした。先輩は練習に支障が出るような怪我はしていない。それに練習は順調で、悪いところは何もない。体においては。ということは、私生活の方で何か原因を作ったのだろうか。成神くんと目が合うと、お互いに首を傾げた。やはり、こういう手のものは洞面くんにきくのが最善策だ。昼休み、洞面くんと成神くんと集まり話し合うことにした。 「まあ源田が休みなのは知ってるけど」 「知ってんのかよ!」 「僕は情報屋だよ?当たり前じゃん。でも原因については二人の言う通り、熱を出したとしか…」 洞面くんでも分からないのか。「でもさ、落ち込んでるって言っても佐久間が勘違いしただけかもよ?」そうなのだ。それは私も成神くんも思っていたところだ。調子が悪くて声のトーンが下がっていただけかも。佐久間先輩が大げさに言っただけかもしれない。実際、そういう人だ。 「あんまり俺たちが考えてもなー」「本当のことは分からないよね」 「うーん…そっか」 あ、じゃあさ!洞面くんはポケットから携帯を取り出した。 「直接きいてみようよ!」 え。成神くんは「おい、熱出してんのに迷惑だろ」と止めようとする。だけど洞面くんはそれをうまくかわしてアドレス帳を開く。成神くんの阻止もむなしく、洞面くんは通話ボタンを押した。成神くんは諦めて再び紙パックに手を伸ばす。そのまま耳に携帯をあてると思われた洞面くんが、瞬間、にやりと笑った。 「名前が出てよ」 「え!?何で私が…」 「出れば分かる」 半ば無理やり持たされた携帯。呼び出し音が鳴っているのが分かる。な、成神くん…!見れば右手を左右に振った。「無理。曲聴いてる」ええええ。 ついに私は妥協して、携帯を耳に押しあてた。呼び出し音は私の頭に入って怠けた思考回路を叩き起こす。まさか源田先輩と電話する日が来るなんて…。緊張感は高まる。 |