佐久間先輩と別れて冷静に考えてみると、先輩には何か考えがあるように思えた。第一、私のことをよく見過ぎている。もしかしたら源田先輩のことも見ているのだと思うけれど、それにしたって佐久間先輩は第三者だ、そこまで干渉する必要はない。
だけど実際助かっていた。佐久間先輩がいなかったら私はサッカー部のマネージャーになることはなかったし、私と源田先輩で練習をすることはなかった。それに、さっきだって佐久間先輩が声をかけてくれなければ、この悩みを話すことも出来なかった。ちょっとすっきりしたのだ。先輩には感謝している。

そして今日、私はもう一度先輩に相談することにした。ちゃんと先輩の邪魔にならないように時間の方も考えてある。定期テストはまだ先だし、練習が終わってから少しの時間を取っても、先輩は嫌がらないと思う。むしろ、私の恋を応援してくれている(面白がってるようにも見えるが)から、多分断らないはずだ。シュート練習を終えた部員に水筒とタオルを渡す際、小さなメモを挟んでおいた。佐久間先輩はすぐにそれに気付いたようで、全員にそれらを配り終えたあとに先輩に視線を送った私を見返し、そして小さく頷いた。安心して私も笑顔を見せる。先輩はすぐに気持ちを切り替えて、鬼道先輩と何か話し込んでいた。良かった、佐久間先輩がいい人で。何気ない所作で腕時計を見た。






次々に部室から出て行く部員を横目で見ながら、私はカゴに入れられたタオルをたたんでいた。洗濯して帰らなきゃいけないが、さすが帝国なだけあって、乾燥機付きの便利な洗濯機を使用している。だからタオルを中へ放れば、明日の朝練の時に中から取り出し片付けるだけで済む。利便性を追求した部活である。
その時、部室から源田先輩が出て来て、不意に私の方を向いた。横には咲山先輩がいる。源田先輩と目が合って、少し動きが鈍くなったけれど、距離がある、ほんのり赤みを生じた頬は見られていないだろう。平静を装って、「お疲れ様でした」と頭を下げた。先輩の方から声は聞こえない。顔を上げれば、咲山先輩と何か話しながら帰って行く後ろ姿があった。程なくして佐久間先輩が部室から姿を現し、中に誰もいないことを伝えられると、私は洗濯機にタオルを入れた。スイッチを押して回り始めたことを確認しながら、私はカバンを肩に掛けた。乾燥後にスイッチが自動で切れることを知った時は、一主婦のように喜んだ。

「先輩、お疲れ様です」
「そういう名前もな」

しばらく先輩と部活の話をして、携帯をチェックした佐久間先輩は、「げっ」とか「はあ?」とか呟いて肩を落とした。急用が出来たらしい。謝る先輩に、急に頼んだ私が悪いですから、と言って歩行を促した。駅に着くまでの間、部活の話題から急に私の持ちかけた相談に切り替わり、急かされるように思いを言わされた。

「つまり、名前はもっとあいつにアプローチをしたいと」
「ま、まあそういうことです。そこまで積極的じゃなくていいんですが…」
「あー…」

先輩は遠い目をした。先は長いぞ、と言われてる感じがした。

「源田は鈍感な奴だ。ちょっとやそっとのアプローチには気づかないと思う」
「じゃあどんなことをしたらいいんですか?」
「告白だ」
「は?」

あまりにも早くきっぱりと断言されたので、私はその言葉を分からずにいた。告白…?

「え、先輩?」
「無理か?」
「いやあの、どう考えても無理です!そんなに勇気ありません」
「はは、すまない。悪ふざけだ」
「度が過ぎます!」

告白なんてまだまだ先のこと。冗談に聞こえないところが、先輩らしさというか何というか。駅までの距離で、私は決心した。先輩にどんどん話しかけて、仲良くなろう。初期段階だ。頑張っていこうと思う。先輩も、今までと変わらず応援してくれると言ったので、私の意志はより固いものとなった。






先にコンビニを出た咲山が、ある一点を見て微動だにしなかった。

「咲山?アイス溶けるぞ」
「源田。あれを見てみろ」
「?なん…」

俺の目に映ったのは、佐久間と帰る名字の姿だった。名字は笑って佐久間と会話している。「佐久間とマネージャーってつきあってんのか?」咲山が俺に尋ねるも、答えるだけの余裕が無かった。二人の元へ行こうぜ、と咲山が向かおうとしたが、俺はそんな咲山の肩を掴み、静かに制した。

「いや、止めよう」
「は?源田?」
「邪魔しちゃ悪いだろ」

身が張り裂けそうになりながら、俺はもう二人を見なかった。その夜珍しく体調を崩した俺は、どんどん上がっていく熱の中で朧気に名字を想っていた。名字。名字。

…好きだ。




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