洞面が勉強を教えてくれと頼むので、ファミレスに来てかれこれ一時間程見てやると、元々頭のいい洞面は一時間半後には一人で問題を解けるようになっていた。

「源田は上手いねー。佐久間にきいた時は全然分からなかったのに」
「佐久間は教える気が無かったんだろう。そもそも、あいつは人にものを教えるのは上手くないからな」

水を入れにきた店員に、追加で料理を頼む。洞面は何か食べないのかと訊くと、問題集に顔を向けながら「アイスクリーム」と単語が出た。最初の注文の時にドリンクバーを注文しない洞面に驚いたが、やはり体のサイズは嘘を付かないみたいだ。俺の視線に気付いた洞面に睨まれた。

「そういえば源田さー、最近何だかせわしないよね」
「…そ、そうか?」

しまった、相手は洞面なのに声に浮つきが出てしまった。洞面を前に上手い隠し事をしないのは、自爆するのと同じだ。恐れていた通り、洞面の顔が意地悪くにやついた。後輩なのに気の抜けない人物だ。
結局白状することとなった。洞面にはあまり言いたくなかったが。どこかで、高一で一番の情報屋は洞面だと聞いたことがあるのを思い出した。成神より危険な存在である。

「名前?…へーそうなんだ。源田は名前が好きなんだ」
「待て、洞面声が大きい」

ここが駅前のファーストフード店であることを分かっているだろうに、洞面は声を潜めることをせず俺と名字の名前を連呼する。恥ずかしさよりも、帝国の生徒に知られやしないか体に緊張が走った。

「鬼道が言った通り、確かに名前は人気だからねえ。僕は別に名前のこと好きじゃないけどね」
「そ、その言い方は失礼だろう!」
「え、じゃあ好きだって言っていいの?」
「それは…」
「面倒くさいなー源田は。恋愛感情は持ってないって言ってるんだよ。つまり友達としては好きだよ」

面倒くさい奴、と称されてしまった。洞面の注文したメニューが運ばれてきて、続いて俺の頼んだ料理がテーブルに置かれた。一先ず黙ったままフォークを持つ。洞面はアイスを口に含んで幸せそうな表情だった。洞面が俺に提言した。

「源田は余裕無さ過ぎだよ。いつものように帝国のゴールキーパーの威厳保って構えてなきゃ」
「そんなに余裕無さそうに見えるか?」

「かなりね」洞面がまたアイスを口に運ぶ。「少なくとも鬼道と佐久間は気付いてるよ」と付け足された。結構顕著なようだ。余裕が無くなるのも仕方のないことだ、好きな奴が同じ部活にいて、しかも相手はマネージャーだ、よく声をかけてくる。体調だとか、今日の動きだとか。臨時でマネージャーになったにしては、なかなかの仕事っぷりで感心する。アイスクリームを完食した洞面は、店員を呼んでケーキを頼んでいた。デザートが好きらしいな、洞面は。

「あ、そういえばね」
「ん?」
「あのさ、知ってる?ここら辺にあるもう一つのファミレス」

洞面の言うもう一つのファミレスとは、駅からちょっと離れているが為に帝国の生徒はあまり行かない、ある意味穴場とも言えるファミレスのことだ。そこがどうしたのか。この時、俺は洞面の話を遮るべきだったのだ。

「この前期間限定のデザート食べに行ったら、佐久間と名前が二人で食事してたんだ」

目の前が一気に真っ暗になった。




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