お兄ちゃんに、今日はお迎えいらないとメールして、部室で着替えている源田先輩を外で待つ。辺りは確かに暗い。携帯が震えて、お兄ちゃんから返信が来た。「誰と帰ってくるんだ?」
なんて返信しよう、と思案する。と、部室から先輩が出てきた。私を見て少し目を動かすと、待たせたなと小さく言われた。全然平気です、と返しメールを打つ。先輩は、家族の人か、ときいてきたので、お兄ちゃんに迎えを断ってるんです、と答えると、「悪いことしたな」と謝られる。いつもキーパーとして帝国のゴールを守っているあの堂々とした姿はそこには見受けられなかった。気にはしないが。

「お兄ちゃんはちょっと過保護なだけです。この前の痴漢のことで…あっ、先輩!あの時は本当にありがとうございました」

前に一度お礼を言ったが、感謝の言葉を述べるのに厚かましいことは無いだろう。先輩はまた前みたいに短く返事をして、帰宅を促した。夕日は半分以上沈み、周りには夜の訪れを告げる闇が物陰を色濃くしている。






先輩に、途中下車になるにも関わらず、改札まで送ってもらうことになった。家まで送ると言う先輩に、駅から家が近いので、と言い先輩が妥協した。いくら暗いと言っても、本当に私の家は駅から近いのだ。しかも大通りで、人通りも多いから安心出来る。先輩もその説明で納得したようだった。電車に乗り込むとドアが閉まった。少し混んでいて、朝の通勤ラッシュ程ではないが帰宅ラッシュだった。当然席など空いていない。痴漢に遭って以来、なるべく座るようになったが、大体が座れないのだ。時間が時間だし、それにお兄ちゃんが一緒だから立っていたってどうということは無い。今日はお兄ちゃんの代わりに先輩だ。

「混んでるな。いつものことだが」
「そうですね」

ドアの端に寄り背を隅に預ける。学園前を過ぎたらずっと反対側のドアが開くので、出る時少し大変だがそれまでは楽だ。揺れる電車。つり革がギィギィ音を立てて電車の揺れ具合を響かせる。それが一際大きく響いた時、がくんと車体が揺れた。私に背を向けて立っている男の人たちが今の揺れで私の方に傾いた。押しつぶされる、反射的に目を閉じたが衝撃は無かった。

「……?」
「大丈夫か?」

源田先輩が、私の両側に手をついて私の代わりに衝撃を受けていた。顔をしかめることもせず、男の人たちの体重を全て背中で支えている姿に、私は息を呑んだ。

「ラッシュはきついな。俺は全然平気だが、名字が」
「…い、え。ありがとうございます」
「気にするな。このくらい守ってやらないとな」
「…!」

源田先輩の笑った顔が、やけに、目に…。

「……あっ、そ、そのなんだ、守るっていうのは帝国のキーパーとして、ゴールを守るみたいにって意味で…」
「は、はい」
「……」
「……」

私の降りる駅のアナウンスが流れる。先輩が顔を上げて、黙ったまま私の前の人を掻き分け反対側まで誘導してくれた。ホームに入り、電車はブレーキをかけゆっくり止まっていく。ドアが開く直前、私は先輩の背中を見つめたままカバンから携帯を取り出した。

「先輩、ここまででいいです」
「ん?そうか?」
「はい、ありがとうございました。お疲れ様です」
「あ、あぁ…」

ドアが開き人の波に呑まれないよう素早く外に飛び出すと、先輩に軽い会釈をして足早にそこを去った。失礼無いよね。改札を出、お兄ちゃん宛てにメールを作成する、「どうしよう」どうにもしようがないのだが、私の頭の中は今にもパンクしそうなくらい激しく動揺に染まっている。

 

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