「成神くん、昨日大変だったみたいだね」
「…あ、あぁ」

朝の廊下で名前に声を掛けられる。翌日になっても痛む体の節々を悟られないように、俺は口の端を無理矢理に吊り上げて笑った。そう、俺がこんなにも体を痛めてる原因となったのは、他でもない目の前の奴――ではなく、我が校のゴールキーパーであった。

源田幸次郎。彼はゴールキーパーの王(一部ではKOGなんて名前が付いていたらしい)として中学サッカー界に君臨していた。相手のどんなシュートも止め、帝国のゴールネットを揺らしはしなかった。…雷門に出会うまでは。結果的に雷門に出会うことで俺たちは影山の操り人形を解かれたわけだけど、先輩はそのことをどう思っただろうか。その後宇宙人やらがやって来て、佐久間先輩と源田先輩は再び影山の駒になってしまったが、当時雷門に籍を移していた鬼道さんが二人の目を覚ましてくれた。それから二人は必死にリハビリをして見事半年で復帰を果たした。帰って来た時に辺見先輩が二人の頭を思いっきり叩いて馬鹿野郎!とまくし立てていたのを覚えている。
肩を叩かれた。

「…あ」
「成神くん?大丈夫?」

名前の姿を視界に捉え意識が現実に引き戻された。体の痛みも一緒に戻って来る。

「昨日どんな練習したの?」
「あー…」

練習というか、あれはほぼいじめに近い特訓だ。初めは普通に、俺がシュートして先輩が受け止める、本当に普通なことをやっていたのに、いきなり先輩が俺にグローブを投げて「俺の使っていいから成神お前キーパーやれ」最初何を言われてるのか全く微塵も分からなかった。何が何だか分からないままゴール前に立った俺に、先輩は力強くボールを蹴った。腹に強かに入るボール。一瞬意識が飛びそうになるが、俺は膝をついて痛みに耐えた。佐久間先輩が遠くから源田先輩に何か言っていたが先輩はじろっと佐久間先輩を睨んで俺をぎろりと睨んだ。気がした。そこで俺は、いつもと雰囲気が違う先輩に気づく。何だか、こう俺に何かを訴えてるような目をしていた。それは羨望の眼差しだった。勘のいい俺は、何となく先輩が俺に向ける眼差しの理由が分かってしまった。

「言葉では表せねーな。すげえ特訓だった」
「特訓…。良かったね!」

良かったなんてもんじゃなかったけど、って唇を動かそうとしてやめた。名前にそんなこと言うのはどうだろう。理性と良心が唇の動きを止める。純粋な目で俺を見るその目に不穏な色を滲ませたくなかった。

「ま、今日ももしかしたらしごかれるかもな」
「体平気なの?」
「平気平気、こんなんでへたる俺じゃねえっつーの」

チャイムが鳴った。俺は名前と別れ自分の教室に入る。席について先生の話もそこそこに、俺は肘をついて考えた。
先輩の昨日のあの態度は間違いなく羨望…いや嫉妬からくるものだった。でも俺、そんなに女子と親しい関係を持つ奴じゃねえし、馴れ合いはあんまり好きじゃねえ。クラスの女子とだって、向こうが話しかけてくればそれに答えるけど必要以上に話さねえし、まあ女子の中で比較的よく話す奴といえば名前くらいで……

「あ」
「どうした成神?」
「いえ、何でもないです」

そうだったのか。


 

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