話によるとマネージャーは胃腸を患って入院してしまったらしい、原因は我がサッカー部にあると医師に明言されたと鬼道の説明、それを聞いて俺の頭の中で記憶が巡る、なんてしてる場合でもなかった。とりあえず佐久間と心臓黙れ。

「いい子が見つかって良かった。部活も入っていないし家庭科の成績は常に優秀、ちなみに…」

男子にも好印象だそうだ、それを聞いた途端俺は体が絞られた気がした。

「色々至らない点があると思いますが、マネージャーが戻ってくるまでの間、よろしくお願いします」

俺の心情も露知らず、その子は深く頭を下げ紹介を終えた。






解散したあと、着替え終わって靴を履き替えている佐久間に声をかけた。佐久間は鬼道を連れて来て、俺たちは帰路につく。

「どういうつもりだ」

鬼道と佐久間は互いに顔を見合わせた。街灯はもうぽつぽつと明かりを灯していて、今日は夜を迎えようとしていた。
俺の問いに、何の話だ?と返さないところを見ると、やはり佐久間があの子を抜擢したようだ。ということは鬼道がそれを許可したとなる。俺とあの子のことで完全に狙っているとしか思えない行動に、俺は嬉しい反面苛つきもした。

「お前がなかなかぶつかっていかないからだ」
「だからといってマネージャーにすることはないだろう」
「じゃあ、」

仮に別の女子をマネージャーにしたところで、お前はあの子に話しかけられるようになるのか。佐久間は俺を見ず問いかけ、俺はそれに答えられなかった。鬼道は黙ったまま歩を進める。

「長い目で見たって俺には無理だと断言出来る。お前みたいな奴は、いつまで経っても出来ないタイプだ」

ああそうだろうな、俺もそう思う、だがな佐久間、あの子をいきなりマネージャーにするのも俺には都合悪いんだ。声はいつの間にか荒くなっていた。自分を見透かされたみたいで無性に苛々した。鬼道は終始閉口したままだった。
前からわいわい騒ぎ立てて小学生が歩いてくる。俺はじゃあな、と短く告げると佐久間と距離を離し、その間を小学生が無邪気に通っていった。そして俺は横道に逸れると、後ろを見ずに家へと向かった。






源田と別れ、鬼道が初めて口を開いた。

「あいつ、随分動揺しているようだな」

鬼道には俺の考えや思いが分かっていたらしいな。俺は右に曲がって去っていく源田の背を見つめながら、ああと呟いた。

「あいつは中学の時から何かと不器用だったからな」
「フッ…まぁな。佐久間、お前の助けがなかったら今も」
「いや、それは違う」

鬼道の言葉を遮り俺は歩みを止めた足を再び動かす。鬼道は少し眉を上げて険しい顔をした。違うとはどういう意味だ。

「俺は源田を助けたかったわけじゃない、ほぼ興味の範囲だ」
「興味?」

面白くなりそうだったからあの子をマネージャーにしたいとお前に言った。鬼道はしばらく呆けてから、俺も佐久間と同じ気持ちで許可を出したのかもしれないな、と笑みを浮かべた。


 

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