何でも一つ願い事を叶えてやる、と言われたら迷わず俺は答えるだろう、「あの子の名字が知りたい」と。

幸い授業が少し長引いていたので呼び出しは食らわずにすみそうだ。ドアから先生が出てくると、五分くらい説教された。すみませんと謝ると、先生はそれから何も言わず職員室へと向かっていった。中から佐久間が顔を出す。

「お前次きっと当てられるぞ」
「あぁ、分かってる」

鬼道も廊下に出てきた。

「どこに行ってたんだ?」

言葉に詰まった。言えるわけない、あの子に会いたくて教室を覗いてきたなどと―…

「あの子のところか」

どっきん、心臓がはっきりと音を立てたのではないか?佐久間の言ったあの子の名前が妙に耳にさわる。目の前の奴が途端に羨ましくなった。名前で呼ぶと何か変わるのか、例えばあの子とぐっと近づけて仲良しになったり、とか、…有り得ないか。度胸の無い言い訳をしたことを反省した。

「分かりやすいな」

無言の返事を返す。鬼道は教室に戻り俺も続いて中に入った。佐久間だけはまだ廊下に立っていたが、席について次の授業の準備をしている時も、奴のじとっとした視線を感じていた。






それから四日後。

「よろしくお願いします」

今日の星座占いは九位と低かった気がする。おまけに朝電車の中でサラリーマンに舌打ちされたし(よろけてぶつかったからだ)昨日の雨で出来た水たまりにも足を突っ込んでしまった。今日はついてない、と気分沈めて部活へ行くと、何やらいつもと違う雰囲気がそこに漂っていた。まず成神が俺を見て嫌味に笑い、辺見がそれを上回る笑みで俺を見、洞面と鬼道が俺に来いと言った。左足が濡れたままサッカー部集団に入ると、そこにいたのは、…あの子だった。

「今日から一ヶ月だけ、入院したマネージャーの代わりに来てくれることになった」


 

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