どうも気になって仕方がない。今日髪の跳ねが直らなかったこととか、不動くんにスカートめくられたこととかより気になって仕方ない。今日の全てのことなど、日本代表チームの選抜試合前から気になってることに比べたら何てことないのだ。
私が気になってやまないのは緑川リュウジの存在。みんなは最初彼の代表選抜に驚いていたもののすぐに仲間として受け入れられたけど、私は非常に引っかかるのだ。許せないのだ。彼が今までやってきたことと、性格と容姿と雰囲気と。その点ヒロトくんは例外だ。性格は殆ど(というか全く)変わっていないし、容姿も髪が少し跳ねたくらい。雰囲気だってちょっとあやしいところは以前のままだ。自分を愛してくれるお父さんの為に私たちを倒そうとしていたのも納得がいく。だけど緑川リュウジは、お父様に愛されたいから学校破壊を繰り返していたとは考えにくい。要するに、いくら外見や性格が変わったからといえ私は学校破壊をしたことを許せないのだ。つまり、「緑川リュウジが」ではなく「レーゼが」許せないのである。それを緑川リュウジ本人に直接言いたくて、消灯までの貴重な自由時間を彼の為に費やしてるのだ。

コンコンコン、私は強くドアをノックした。

「はい」
「マネージャーの名前ですけど」
「あぁ、名前さん」

ドアが開いて緑川リュウジが姿を現した。何か用?ときいてくる彼は、やはりどこか疑ってしまう要素がある。そのまま黙って睨んでいると、緑川リュウジは初めて会った時と同じ、ひらひら手を振り困ったように笑った。

「や、やだなぁ〜。そんなに睨まないでよ」
「話があるんだけど」
「長くなりそうだったら中入ってもいいよ」

上から目線にむかっときた。何が、長くなりそうだったらだ、お前の為に来てやったこっちの方が立場が上なんだぞ、わきまえろ宇宙人。

「…何それ?」

緑川リュウジの顔が曇った。どうやら今の言葉が喉を震わせ外へ出たらしい、しまったと思ったが本心なので開き直る。私はずかずかと部屋の中へ入った。

部屋の中はすっきり片付いていて、サッカー雑誌が床に広げて置いてあった。後ろから緑川リュウジが不機嫌に声を出す。

「さっきの言葉について説明してもらえる?」

とても不機嫌そうだった。確か前に木暮くんに宇宙人と言われて殴り合いになりかけたことがある。ヒロトくんが、「オレはいいけど、あいつに宇宙人は禁句」的な発言をしていた気がするけど、少し前まで宇宙人みたいな素振りを見せていた彼らを宇宙人の意識からかけ離すのは難しい。心の中で彼らを宇宙人宇宙人と言っていたのはその発言以来私だけじゃないかと、今更に気づかされた。

「オレもう宇宙人じゃないって初めに言ったよね?」
「私は学校破壊をしたあんたを許せない。円堂くんや他のみんなは許しても、私は許さないよ」

彼はキレたらしかった。私に向かって舌打ちをすると、ゴミ箱を蹴り飛ばした。中に入っていたゴミが四方八方に散る。

「だから!あれは仕方なかったんだって言っただろう!ああするしかなかったんだって!」
「あんたのそれが仕方ないことだったんなら、私があんたを許せないのも仕方のないことだよね」
「っ!!」

緑川リュウジの瞳に、一瞬だけレーゼの頃の鋭い目つきが戻った。すぐにまた彼に戻ったが、やっぱりまだ抜け出せていない。私は追い討ちをかけるように冷静な声で言葉を重ねた。

「いくらふりをしていたと言ったって、それで学校が元に戻るわけじゃない。あんたは壊した学校全部を回って土下座したの?あんたがやってきたことは、そのくらい酷いことなんだよ」

緑川リュウジは大人しくなった。私の言ったことは正論だ、無理はない。ここで素直に謝ってきたら私も大人しく部屋を出て行こう。彼が黙っている間にそう考えを纏め、彼からの返答を待った。しかし、答えは意外なものだった。

「…許してくれなくていい」

私は怯んだ。その瞬間だ、緑川リュウジが私の肩を掴んでベッドに押し倒してきた。いきなりの行動に驚いて動けない。緑川リュウジは私の上に跨ると妖しげに笑った。

「実はまだレーゼでいたい部分もあるんだよね」
「…?どういう意味」
「オレ、本来の姿はよく舐められるんだよ。もやしみたいだってね」

確かに、言った方の気持ちが分からなくはない。ひ弱とは違うけれど、なよなよしててふにゃりと軟弱な感じ。舐められてもおかしくない。

「だけどレーゼでいると、地位的に低く見られるけど舐められることはない。強気な態度を取っても誰からも笑われることはない。何が言いたいか分かる?」

つまりね、こうやって好きな子を押し倒して好きなこと出来るってことだよ。背中にぞわりと何かが走り、逃げなきゃと本能が体に告げた。

「もう遅いよ」






チェンジ


 

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