鈍感バーン






馬鹿者が、オレの後ろで見ていたんだろうガゼルがそう罵倒を浴びせてきた。ネッパーがヒートを引っ張ってその場から去る。空気を読んだつもりだろうが、この状況でのその行動はオレには全くの逆効果だった。オレとしかいない時、こいつの罵倒は更に酷く痛烈になってくる。

「愚か者、何故名前を泣かせてる」
「オレがあいつのケーキ食ったから」
「そんな餓鬼くさいことをしたのか。やはり脳は幼児期から成長していないむしろ退化してるのか馬鹿が」
「うるせえ!」

あーヒート達にいて欲しかった。ふんと鼻を鳴らす隣の男は、最後に謎の言葉を残してオレの横を通り過ぎていった。

「ケーキは上手くとも、恋愛というものは上手くいかないものだ」






ドン、と一回強く叩いたドアは、痛いと言う代わりにオレの方(廊下の方)に反り返ったように見える。そんなのお構いなしに、オレはドアをもう一度叩いた。

「名前!いるんだろ?」

予想していた通り返事はない。いつもならここでむかっとくるのだが、今回はそうもいかない。だって、ケーキ食っちゃったのオレだし。あのケーキ頑張った、とかよく分かんなかったけどなんか大切なケーキっぽかったし。もしかして人に上げる…

「人に…?」

人に上げるんだとしたら誰だ。グランかガゼルか、いやあの二人じゃねえ、ネッパー?ヒート?あの二人は甘いもん苦手だ、じゃあお父様?それだとグランに殺される、もっと身近にいけばウルビダ…ウルビダ?
一気に顔から血の気が引いていって、生きた心地がしなくなった。ウルビダだったらまずい、(ウルビダは名前のことが大好きだ)下手したらお父様よりまずい、スーパーノヴァだのスペースペンギンだの撃ちかねない。名前を泣かせたなんてバレたらエイリア学園追放にまでなりかねない、かも。やべえ、オレはまたドアをどんどんと叩いた。

「名前!悪かった、あのケーキそんな大切なもんだと知らなくて…」
「……」
「とにかく話がしてえ、いるんだろ!?」

ドアがほんの少し開いた。そこから僅かに名前の姿を見つけると、ドアに手をかけて一気に開けた。名前が縮こまってオレを見る。中に入りドアを閉めると、小さな声で出てって、と言われた。

「名前、」
「出てって、嫌いって言った!」
「謝りに来たんだよ」
「うるさい!嫌いバーンなんか…っ」

じゃあ何でそんな顔で泣くんだよ。オレは名前を抱きしめた。ぐぐ、と強く押されるが、それより強く抱きしめてやる。やがて名前は大人しくなり、ぐすぐす泣く音が部屋に響いた。

「あのケーキね、二ヶ月頑張ってやっと買えたの」
「……あぁ」
「すごく楽しみにしてたの、サッカーの練習が終わってシャワー浴びてから食べようと思ってたの」
「…あぁ」

名前の髪からほのかにシャンプーの匂いがするのに今気づく。

「なのにシャワーから帰ってきたらどっかの馬鹿な誰かさんが食べたとか言って」
「……」
「私の二ヶ月無駄になったの、また一からやり直しなの、バーン分かる?」
「ごめん」

本当に名前は残念そうだ。まじで悪いことした、ごめんじゃきっと許してくんねーな、でもこいつ優しいからな、と色々考えてると、名前の腕がオレの背中に回った。

「もう一回謝って」
「ごめん」
「ちゃんと」
「ごめんなさい」

バーンがごめんなさいだって、と名前は笑った。むかつかなかった。今はこいつが笑顔になってくれたので満足だった。許してくれるか?と呟いたら、うんと言うかわりに強く抱きしめてきた。






ケーキ












直後、がちゃ、とドアが開いた音がして、瞬間後ろにものすごいオーラを感じとっさに振り返った。

「名前を泣かせた、馬鹿で愚かで下種な奴がいるというのはここか?」
「なっ…」
「ウルビダ?」
「やぁ名前」
「おいてめえグラン!!」
「オレじゃないよ、ガゼル」
「あの野郎…」
「そこの馬鹿男ちょっと付き合え、練習場までな」
「私も…」
「名前はオレと一緒に父さんのところ行こう?」
「おい助けろグラン!…うわぁぁぁぁ」

翌日、限定ケーキを美味しそうに頬張る名前と、包帯でぐるぐる巻きにされたバーンが学園内で話題になった。


 

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