素直になれないアホな風丸






世の女の子たちはかっこいい人を追っかけたがる。芸能人しかり、世界的スターしかり、それが叶わない恋だと知りながら想いを寄せ心を満たす。かっこいい彼氏がいる子も、かっこいい芸能人を追っかける、一度は経験したことがあるのではないだろうか。

「風丸く〜ん!!!!」

私は、そのけたたましいともいえる声援に目が覚めた。放課後の楽しみである、教室での居眠りが中断されたので、瞬く間に不機嫌オーラが私を包む。少し肌寒い季節なのもあって、ぶるっと体を震わせると、広く町が見渡せる三階の窓からグランドを見下ろした。風丸……あぁサッカー部か。

風丸一郎太。私の中での彼の解釈は、「下の名前が変な奴」。今日も彼は、汗をかきながら円堂たちと部活動に励んでいる。私としてはあの長い髪がうっとおしくて仕方ないのだが、そこが女の子にもてる要因ともなっているらしい。半分女じゃないか。どこがかっこいいというのだ。私には理解しがたい境地であり、分かりたくもない境地である。

「風丸が呼んでるぞ」

豪炎寺に、ぶっきらぼうにこう言われたのは、黄色い声援に目が覚めた日から三日後のことだった。私は耳を疑った。風丸一郎太が?私を?彼のファンでも彼女でもない私が?幸い豪炎寺は空気の読める男だったので、風丸一郎太のファンのいない隙を伺って伝えてきてくれた。そのことには感謝してやろう。私が上から目線なのは元々だ。豪炎寺はそれだけ言うと自分の机に戻り、頬杖をついて窓の外を見た。






「何、風丸くん」

私は呼び出しに素直に従い、屋上へと続く階段の踊り場で風丸一郎太に訊いた。来てくれたんだね、と笑う彼は、やっぱりどこか好きになれない。

「手短に用件を」
「このあと何か用事でもあるのか?」

間髪入れず風丸一郎太は尋ねてきた。私は話の切り替えの速さに怯む。風丸一郎太は口の端を僅かに上げて笑った。言い訳、出来ないか。

「…無い」
「ならどうしてすぐに去って行こうとするんだ」
「別に、友達と話したいから」
「友達なら目の前にいるのに、これも話してるうちじゃないか?それともオレは友達じゃないとか?」

…あ、こいつむかつく。今のはただの屁理屈だ。昼休みな為、あと二十分はチャイムが鳴ることはない。完全に風丸一郎太(こいつ)に引っかけられてしまった。

「…やっと話せるよ」

風丸一郎太の雰囲気が変わる。いつもの、人に優しい印象は欠片も感じとることが出来ない。私は身構えた。何を言われるか。何をしてくるか。いざとなれば逃げられるように、足は階段へと向いていた。

「オレと――」
「……っ」




「鬼ごっこしようよ」




「…へ……?」

これを世間一般的に拍子抜けというのだろうと、なんとも間抜けなことを考えている間に、風丸一郎太はふっと笑って言い放った。

「オレが鬼で、君が逃げる。十秒待つからその間に逃げてくれ」






意外と奥手
捕まえた時が、オレの告白のチャンスだ




 

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