※完全捏造






一言で言えば面倒くさい、二言で言うならそれに扱いづらい、を付ける。もう中学生なのに、頭いいのに、容姿はいいのに、どうしてこう、何て言ったらいいのか…。面倒くさいんだろう。そんな言葉じゃこいつらを片づけることは出来ないのだが。
「前、いいか」カタン、とトレイの音がして、たった今カレーを口に入れようとしたわたしの目前に、全てにおいて学園一を誇る奴が静かに着座した。わたしと同じカレーであるが、やつのは少し甘そうだ。そうだった、こいつは辛いものが苦手だったなぁとわたしはスプーンを置いてわかめスープを飲む。唇に貼りついたわかめを舌でうまく舐めとると、バダップの後ろをいやな奴が通った。こちらを挑発する目に、返すように同じ目を向けてやる。そのわたしの一連の所作がわずかでも気に障ったらしい。バダップの隣に荒々しくトレイを置いて席に座りやがった。

「その目は何?オレに何か言いたいことでもあるわけ?」
「昨日は姿を見なかったなと思いまして。おはようございますミネストローネさん」
「昨日は一日中野外訓練だったんだよ。ま、馬鹿女は分からなくても仕方ないか、馬鹿なんだから」

バダップは横でもくもくと水を片手にカレーを食している。甘口のくせに水要るのかよ…。バダップないわーと思って見つめていたら、わたしの隣に髪色の大人しい奴がやってきた。「よう童貞」きれいに声の重なったわたしとミストレを、全く覇気のない目で睨みつけてくるエスカバはいかにも辛そうなカレーを水なしで持ってきた。バダップはエスカバのカレーを見て目を丸くしている。

「辛いのに、水いらないのか…?」

その場に大変似つかわしくない発言に、ミストレもエスカバも何も言わない。バダップが少しかわいそうになってわたしが代わりにつっこんであげた。何を納得したのか、黙ってうんうんと首を縦に振ったバダップを差し置いて、早くもミストレとエスカバは険悪な雰囲気である。そこにわたしも入ってみる。バダップはわたしたちとは空気を違えて同じ空間に存在していた。

「エスカバさ、この前の実技テストの評価いくつだった?」
「人にそういう情報を訊く時はまず自分の評価を教えんのが常識じゃねーの?」
「そうだそうだスープ男」
「黙れよ脳細胞死滅女。オレはAだったけど」

エスカバがにやりと口の端を浮かばせた。「Sだ」「はぁ!?」赤みがかったルーと白米を混ぜ合わせて、わたしのトレイにわかめスープを乗せたエスカバは(わかめが嫌いなんだとか。まだまだ子供だ)、したり顔で混ぜたそれを口に頬張る。むかつく顔で食うな。そして、確かにSと言った。エスカバが…S!?カレーを食べ終えたバダップはわたしのグラスの水を勝手に飲みほした。おい、それわたしの水。中身が空になったグラスをわたしのところに戻し、平然とした顔で一呼吸おいているこいつを衝動的に殴りたくなった。マイペースすぎるんだよお前はよぉぉぉぉ!!

「有り得ないね、エスカバがオレより高評価だなんて」
「いや、この結果はミストレの脳がミネストローネという元の姿に後退していってることを著明に表している」
「お前まじで死にたいの?」
「名前はいくつだったんだよ」
「Aだ」
「…はっ!お前ら教官の説明を真面目にきいてねえからそういうことになるんだよ」

は、腹立つこいつ…すごくいい気になってる。ミストレもイライラしているのか、テーブルに人指し指を打ちつけ始めた。たしかにエスカバの言う通り、わたしたちは教官が実技試験の説明をしている間お互いのことを貶しあっていた。小声で罵倒の言葉を吐きまくれば足を蹴り蹴られ、わたしがミストレのアキレス腱に思い切り軍靴のつま先をぶつけた時、かつてないほどの力で足の甲を踏まれた。そんなことをしていたのを、教官は逃さず見ていたらしい。めざとい…じゃなくて、これは先にちょっかいを出してきたミストレが悪いってことで解決。ミストレの方も自分勝手な解釈をしたようだ。どうせわたしのせいなんだろうけど。

「おい、バダップはどうだったんだよ」

エスカバが茶化した口調でバダップに目をつけた。ミストレもバダップに視線を向ける。ミストレはバダップにライバル意識を持っているから気になるのだと思う。ちなみにバダップの方はそんなこと全く思っていない。いきなり注目されたバダップは、エスカバのカレーにちらちら目をやりながら(まだ気になってんのか)、Sと答えた。

「オレと同じSか。バダップならまあ普通だな。ま、ミストレたちはもっと下だけどな」
「エスカバは一生童貞を卒業出来ない気がする」
「今それ関係ねーだろ!」

「…プラス」バダップの声が聞こえた。プラス?「S+だった」「は?」エスカバもミストレもきょとんとした表情になって、そしてすぐに眉尻を上げた。

「+かよ!」
「?そうだが」
「……」

ミストレが黙ってしまった。エスカバはどんどんバダップをまくしたてる口ぶりになってきている。バダップは、何故エスカバに罵られているのか分からない様子でわたしの方を見、助け舟を出している。だけど残念でした、わたしは傍観者に徹することにします。頑張れバダップ。

「オレもう行くわ。つーか空気読めよなお前。今のまじ有り得ねえから」
「エスカバ…?」
「オレも同感。バダップさ、もうちょっと生身の人間について知るべきだよね」
「ミストレまで何を、」
「行こうぜミストレ。あんな堅物放っとくに限る」
「今だけオレもエスカバと同意見だ。じゃあな、イシアタマ」

珍しい組み合わせが去って行った。彼らを引きとめようとしたバダップは中腰のまま動かない。彼らの気迫と自分への嫌悪感を感じとって何も出来ずに終わったのだろう。わたしはそんなバダップとの気まずい空気をどうにかしようともせず、静かにカレーを食べ終えた。数分後、一息ついているわたしの前でやっと腰を落としたバダップは、綺麗に食べられた自分のカレー皿を見ながら、わなわなと唇を震わせ始めた。あ、やばい。異変に気付いたわたしはすぐにそこを去ろうとしたが、「…名前」ちょっと遅かったようだ。こうなったら誰の手にも負えない。

「オレは…あの二人に何か悪いことでもしたのだろうか……」

既に涙で言葉が滲んでいる。い、いやだー!この前慰めるのにどれだけ大変だったことか…!バダップは実はかなりの泣き虫だというのに、あの二人といったら自分の気持ちぶちまけるだけぶちまけて行くんだから!「オレは…本当にオーガのリーダーでいいのか分からなくなってきた…。名前」――め、

「……辞めたい…この学園」

めんどくせぇぇぇぇ!!―…わたしの叫びは誰にも届かなかった。






つづらおり



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