※色々無理やり設定






「そんなわけで、明日から二週間韓国に出張だ」

「…嘘でしょ……?」「嘘をついてどうする。この私が深夜にそんな酔狂な嘘をつくと思うか?」いや…と言葉を沈黙へと変えて、わたしは受け取ったスーツを握りしめた。
風介はいつもそうだ。人のことを考えず勝手に行動してしまうところがある。大事なことも言ってくれない。仕事関係のことは全て自分で判断してしまうから、こういった出張が入ることは珍しくない。そのたびにわたしは諦めの念と、ほんの少しの涙を流す。もちろん風介は知らない。待たされる側の気持ちも、少しは汲んでほしいのに。それを言わないわたしにも非があるから我慢に徹するしかないが。

「風介韓国語話せるの?大体、ちゃんとホテルは取って…」
「その点は問題ない。中学生の頃韓国チームに所属していたことがあるし、亜風炉…ほら、この前南雲と一緒にうちに遊びに来たあいつ、韓国人なんだ。そいつが自宅の一室を貸してくれるからな」
「…そっか」

壁にかかった時計は既に日付を変えていた。今から準備するのか、風介は自室に入ってそれきり出てこなくなった。わたしは風介に聞こえないくらい小さなため息をついて、レンジに入ったままの焼き魚を取り出し、ラップをかけて冷蔵庫にしまった。ソファに座る。またため息をつく。二週間か。休日が暇になるな。

(…南雲と同棲した方が楽しかったかも)

選ぶような思考、いけないのは分かっている。それでも風介の態度が、こんなにもわたしを不安にさせているのだ。こういうことを思うのは自然だ。「おい、」風介が部屋からわたしを呼んだ。

「何?」
「まだ寝るな。用事がある」
「…なら今言って」
「寝る気が無いだろう。待ってろ」

「寝る!」むかついてソファから立ち上がった。寝るな?こんなに夜遅く帰って来た奴を待ってただけで十分だ!勝手に明日出張に行ってしまう奴の言うことなんかきくか!風介なんか韓国なんて近いところじゃなくてイギリスにでも行ってしまえばいいんだ!トイレ済ませて寝よう。明日は見送ってやらない。昼過ぎまで寝る!何が何でも!すると引き戸が開いて、風介がわたしの様子を覗き見た。わたしの怒った顔に気づいたのか、体を出してこちらに歩み寄ってくる。わたしは風介の顔を見ない。

「…何を怒ってるんだ」
「分からないの?風介のせいだよ」
「私?」

風介は心外そうにわたしに訊き返す。彼は何も分かっていない。「そうだよ」わたしは堰を切ったように泣きだした。「いつもいつも、一人で勝手に何でも決めて勝手にどっか行っちゃうじゃない」風介は言葉に詰まったようだった。謝罪の言葉も紡ごうとしない。何で?わたしは自分の気持ちをこんなに伝えてるのに。風介は自分が悪くないとでも思ってるの?そこでやっと「……すまない」と一言返ってきた。わたしは鼻をすする。風介の方が悪いのに、わたしが責められてるみたいな雰囲気。「もういい、」疲れた声を出した。

「おやすみ」

――瞬間、風介の声がわたしの耳を凍りつかせた。

「結婚しよう」






ああ一日が短いな、






振り返ることすら出来なかった。今何て言った?後ろに風介の気配を感じながら、わたしは口を開ける。

「今言う?この状況で?」
「雰囲気を大切にしたいのなら謝る。ただ、誤解されたまま出張に行くのは嫌だからな」

身勝手な理由。それだって風介の自分勝手だ。この男はわたしに何を訂正したいんだろう。

「誤解というか、私がこんなに出張を重ねているのは、その、今言ったことが関係しているんだ」
「……」
「ああその、つまりその」

風介がこういった場面で話し上手じゃないことは知っている。わたしは何度も(会社にいる時は南雲が)風介の会話の手助けをしてきた。しかし、今回ばかりは助けてあげられない。話の内容次第では布団直行である。風介ももう社会人なんだから、そこは独り立ちをしてほしい。そこで、彼に内心何かを期待してる自分がいることに気付いた。

「…名前は昔、結婚式は盛大に、派手にやりたいと言ったのを覚えているか」
「……言った」
「叶えてあげたいんだ。まだ会社でも下っ端な私がお金を貯めるには、出張をして地方の支社に赴くほかなかったからな」

風介が出張に行くには十分すぎた理由だった。わたしのために、自ら会社のデスクを飛び出して、体力の許す限り地方に赴き契約や売り込みをしてくる。人より多く給料をもらうには、ちょっとした数の出張では足りない。それに、いい成績を残してこなければいけない。「月に一週間デスクワークをしていれば、あとは出張を許可してくれた。幸い、それが許される課に所属していたからな」風介は不器用なだけだったのかもしれない。働く男の典型的なタイプだ。ここでわたしが尊重の言葉を口にしたら、彼はきっと呆け顔をして、それから顔を真っ青に染めるのだろう。本当に不器用だ。

「今回の出張はもう断れない。本当に申し訳ない。今言うと言い訳がましくなるが、この出張でいい成績を残せたら…」

わたしは踵を返し風介に抱きついた。「いいよ、言わなくて。帰ってきたら行動で示して。仕事、頑張ってきてね」困惑したような声でわたしの名前をゆっくり呼ぶ風介は、たどたどしい動きと声で、ああ、とわたしの背中に手を回した。本当はわたしも(少しずつではあるが)風介と同じ目的でお金を貯めているのだ。それは彼がこの家に帰ってくる二週間後に打ち明けようと思う。






ああ一日が短いな、サンタマリア



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