赤面アツヤ






「アツヤ的にはどう思ってるの?」

お兄さんの女癖、と付け加えるとぐっと顔色を悪くして斜め下を見た。「…別に」あ、嘘。アツヤが嘘をつく時っていうのは、質問への返答が遅い時に限る。いつまで経っても自分の癖にも気付かないアツヤは、多分勘の働く兄に比べて鈍感なのだろう。「嘘つかないで正直に答えて」「は、はぁっ!?オレは嘘なんかついてねえ!」「それも嘘。最初にどもったし。決定的証拠ね」「うっ…」アツヤはどうしてか兄を庇いたがる。双子故の性質なのか、それともただ単に兄弟愛か。不明瞭に存在を主張するアツヤの癖は、私を時々混乱させる。

「だって、前にポロッと言ってたじゃん。兄貴の女癖には困ったもんだって」
「そ、その時は、つい言っちまっただけだよ」
「……ふーん?」
「な、何だよ」
「…もしかしてお兄さんのことが好きなの!?」
「んなわけねーだろ!!」

これは本当らしい。即答だった。「まぁ兄としては好きだけどよ」吹雪兄弟は、仲の良さとサッカーの上手さで有名だ。士郎が守りアツヤが点を取る。それで幾度となく全国大会進出を果たしている。みんなの憧れの的なのだ。しかしいざ蓋を開ければ、兄は浮気性があり弟は逆に恋愛にはとんちんかん、全くもって性格は似ているとは言い難い。

「アツヤ、お兄さん今何股してるの?」
「あー…っと、四、いや五か?」
「アツヤには好きな子いるの?」
「ばっ…い、いるわけねーだろ!」

うーん、人間って不思議だ。

(…あれ?)

ふと感づいてしまった。今、アツヤどもったよね?

「…本当に嘘をつくのが下手だね」
「……っ」

顔がいくらみたいな赤みを帯びる。すごく分かりやすい。お兄さんのようなポーカーフェイスは苦手のようだ。

「いるんだ、好きな子」
「……あぁ」
「何人?」
「一人だ!!」

高校生だし、好きな子の一人や二人いない方がおかしいだろう。「そういうお前こそどうなんだよ!」眉を上げて、顔は赤らめたままで、アツヤは私に問してきた。私は表情変えず「いないけど」と端的に言いのける。は、とアツヤが呆けた表情をしたので、私はもう一度、いないけど、とゆっくり言ってやった。

「いねーの?」
「悪い?」
「いや…」

急に大人しくなったアツヤを疑い深い目で見て、私はアツヤに好きな子を問いただした。顔をまたいくらの色に変えて、アツヤは携帯を開き鞄を持つ。

「兄貴が委員会終わったらしいから、オレも帰るわ」
「いつも思うんだけど、つくづく仲良いね君たち」
「双子だしな」

よく分からない。「じゃあな」アツヤはドアの方向かって歩いていく。ガラリとドアを開けた時、アツヤは言った。

「お前だって言ったらどうする」

夕日に満たされた教室で、私は一人言いようのない羞恥に襲われることとなった。






あべらべは
これは嘘か真か




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