鈍感な涼野






「ききたいことがある」

さっき私が綺麗に整理したベッドの上に体を置き、風介は腕を組んで難しい顔をした。風介がこういう顔をしている時は大体、将来に関わることかくだらないことかのどちらかで、それの判断は非常に容易い。風介は物事をよく考えてそうで考えていないのだ。今回はどちらだろう、一週間前に尋ねてきたのはくだらなかった。ゼリーとプリンは統計的にどちらが美味しいか、なんて人それそれだ。

「私が名前とこうやって話すのは何故だ?」

ん?私の頭に浮かんだ言葉がまずそれだった。何故?いやいや、質問の意味が理解出来ない。何だそれ、下手な数式より難しい。が、…とてつもなくくだらない。

「それはー…昔同じチームだったからじゃないの?」

エイリア学園マスターランクチーム、ダイヤモンドダスト。言わずもがな、つい二、三ヶ月前に日本を騒がせた張本人たちだ。私はマネージャー、風介はキャプテンをやっていた。
由紀たちは昔のエイリア学園を「自分たちの黒歴史」だなんて言って忌み嫌っているが、私と風介はそんなこと微塵も思わなかった。私たちは利用されただけのこと、そこまで熱烈な悪意を持って世界征服を目論んでいたわけではない。ただ、お父様のために。
実際、ダイヤモンドダストとプロミネンスは、自分たちが世界征服を成し遂げられるとは思っていなかった。世界は広い。お日さま園という小さな世界の中で育ってきたガイアには分からなかったのだ、自分がどれだけ小さな存在か。だから逆にお父様が捕まり、私たちはほっとしたのだ。

「本当に?」

風介は表情固く呟く。「それだけであれば、由紀たちのように連絡も取り合わない仲だろう。何故携帯も持たない私たちが、今も一緒にいるんだ」風介がどこかのお偉いさんのように見えた。

「知らないよ。たまたまなんじゃないの?縁ってのは不思議なところで繋がるもんだよ」
「そうか…」

風介の張るアンテナは大きい。色々な方面に興味を抱く。宇宙や環境、この間なんかロボットに興味があった。私には答えられない質問ばかり、結局風介は自学自習(独学といった方が分かりやすい)で自分の中から浮かんできた謎を一つ一つ解明していくのであった。勤勉な態度は敬意を表すに値するが、今回と同じくだらない質問ばかりなのでなかなか褒めづらい。褒められて伸びるタイプでもないので尚更だ。

「この間クララにきかれたんだ」
「へえ。何て」
「風介と名前はどんな関係?と」

ぶ、気管の妙なところに唾が入り噎せてしまった。それじゃあ、まるで。「名前?どうしたんだ?」風介と私があれみたいじゃないか。眉をひそめて私の顔を覗く風介に気づかれないよう、少しだけ後ずさりをした。と、風介の出し抜けな薄笑い。いきなり何だ。

「今、少し分かった気がする」

私は何だかもやもやした。対する風介は晴れ晴れとした表情。雲一つない晴天である。今度は私が眉をひそめた。

「何、分かったの?」
「ああ」

風介が一歩前に進んだ。「つまり、」それから氷の上を滑るような動きで私の手に腕を伸ばすと、「こういうことだ」僅かな力を込めて手を握ってきた。瞬時に羞恥心が湧いてきて、私の顔は赤く染まる。だけど、離して欲しいとは全く思わなかった。風介の手のぬくみに、甘えたい感情が顔を出したのだ。

「私と名前は友達ではない」

真面目な顔に似合わず、風介の瞳はあたたかかった。指を絡まれて見つめられる。今までにない状態に、私の頭は完全に置いてけぼりだった。友達じゃない?それはつまり…。風介の言わんとしてることが薄々分かってくる。

「だが、まだ恋人でもないな」

まだな。風介が私の前髪をかきあげて徐々に顔を近づけてくる。音もなしに額に触れた柔らかな感触は、私をさらに混乱させた。






ぶぶ
幸せの合図だね



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