※それは無理の続き






どうしてこういう経路に至ったかというと、何もかも全て姉さんが悪いのだ。

「名前、これ買って」
「名前、これはワンコインで買える。だからいいよな?」
「……」

駄目です!!と言って二人の持ってきた商品をそれぞれの胸に押し付けた。一気に不満そうな表情になる(といっても本当に不満がある)ガゼルと、高そうな紅茶の箱を持つグラン。ちらりと値段が見えた。…どう考えても買えるものじゃない。買えるけど。

「ガゼル、それ確かにワンコインだけど、百円玉一枚じゃ買えないよね。却下」
「オレのは」
「問答無用。むしろ、こんな何でもないスーパーでそんな高いものを持ってくるグランがすごい」
「ありがとう」

いや、褒めてない。二人はそれでも渋々と、元あった棚に戻しにいった。油断も隙もないな。絶対にカートから離れてはいけないと痛感する。右の棚から味の素を一つ、カートに無造作に容れた。ガゼルとグラン、あの二人はきっと買い物が好きなんだろうと思う。私と行く前は姉さんと行っていたから、多分ああやっておもちゃ付きお菓子や紅茶をカートに入れても戻せなんて言われなかったのかも。姉さんと私の金銭感覚は違うから、私はおもちゃ付きお菓子に五百円玉は出せない。文句を言われるかと思ったが、意外にも二人とも大人しく引き下がった。戻ってきた彼らは、口々に「あそこの棚にさっき探していたものがあったよ」「今日は冷凍食品が三割引だ」などと報告してくれる。はいはい、とカートをぐ、と押すと、袖を引っ張られた。

「…バーン、どうしたの?」
「先に肉買っとこうぜ」

寡黙だったバーンが精肉食品売り場を指差す。私の袖を掴んだまま右腕を伸ばして指をそっちの方へ向けるバーンが、どうにも子供に思えて仕方ない。ガゼルは嫌そうに舌打ちをしたが、グランは賛成、と頷いた。「じゃ、そっち先に行こうか」ガゼルはバーンとあまり仲が良くないから嫌な顔をしたのだ。バーンの言う通りが不服に違いない。そもそも、姉さんが私に買い物を命じなければ良かったのだ。私だけで…?と姉さんに期待の目を向けたら、姉さんはきっぱりと眉一つ動かさずに「じゃあ、あの子たち連れていきなさい。荷物持ちにはなるわ」。えぇえ〜と私の些細な抵抗は勿論受け入れられなかった。

「はあ…」
「名前、疲れたのか?」
「いや、大丈夫。心配してくれてありがとう、バーン」

後ろから、年か…と嘲笑う声が聞こえた。ガゼルの声だったな、彼にはゼリー抜きという罰を与えよう。ひき肉と鶏のもも肉をカートに放り込んだ。

「じゃあ、次は冷凍食品」
「名前」
「何?グラン」
「グラタン買って」

懲りない男というべきか。でも三割引をうたうチラシが目に入る。「いいよ」「本当!?」「今日だけ特別ね」ガゼルが私に目で訴えてくる。おおかたの予測はついている。

「ガゼルは何が食べたいの?」
「チキンカツ」
「…いいよ」

再びガゼルとグランはいなくなってしまった。あいつら楽しんでるな。ここで、またも口を噤むバーンに視線を向ける。買い物に来てからだいぶ大人しい。借りてきた猫状態だ。彼らのように欲しいものをねだることがないから楽だが。サッカーをしている彼からは想像出来ない今の姿。私の傍を離れない。私と大して年は変わらないのに、まるで小学校低学年の男子みたいだ。

「バーン?」
「何だよ」
「何だか、今日やけに大人しいね」
「おう」
「もしかして具合悪い?」

バーンは首を横に振る。「あいつらが、」「ん?」

「あいつらが、いつか名前と出かけたいって言ってたから」

もちろん、オレも。だから二人ともあんなに楽しそうなんだ。バーンはそう話して、じっと前を見た。直後、視界を何かが遮る。

「名前!ほら、これ。見て、この値段から三割引すると安いでしょ?」
「これも安いぞ。見ろ名前」

二人が現れて、顔の前にグラタンとチキンカツを主張する。いいってば、とカートに容れれば、ガゼルはやっと満足気な顔をした。それから適当に食材を選び、腹が減ったというガゼルの言葉をききながら、四人で正午過ぎに帰路についた。






りんごと包丁






「バーンはあの時何も欲しくなかったの?」

後日。素直に疑問に思ってたことを口にすれば、バーンはリフティングをしながら「三食名前がいいって言っただろ」爆弾発言をした。彼のまとう雰囲気に身震いがした。



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