豪炎寺の技に惚れる






彼の技に惚れた。彼に惚れる前に、技に惚れた。

「はぁ?どういうことだよそれ」

豪炎寺のめったに言わない「はぁ?」をきけて、私は満足だ。

「おい、話をきけ」

そうだ、私は豪炎寺の技に惚れてたんだ。決して豪炎寺が好きなんじゃなくて、ファイアトルネードが好きなんだ。豪炎寺と恋人なのも、彼の技を間近に見てみたかったからだ。
でもそんなこと言ったら、私は技の何が好きなんだろう。技っていっても、炎?スピード?それともボールと炎の間の気圧?

…ボール?

ボールが好きなのか!!そうか私ボールが好きだったんだ!!豪炎寺の繰り出すトルネードの気流に呑まれたあのボールこそが、私の真の恋人になるはずだったんだ!!

「豪炎寺!私好きな人出来た!」
「っな、はぁ!?」

あ、本日二回目のはぁ。私今日ついてるわ。豪炎寺が焦ったようなそんな表情を浮かべて、円堂たちの練習を見ていた首をこちらに向けて私を凝視した。携帯で写メ撮っちゃおうかな。

「誰だよ好きな奴って」

豪炎寺からいつもの冷静さは窺えない。小さく笑えば、笑わないで教えろ!とどやされた。

「好きな人ってボールだよ!」
「…は?」
「豪炎寺の技を身にまとって、ゴールに一直線に入るボールに惚れてたんだよ私。きっとそう、うん」

そうと決まれば早速ボールに会いに行かなきゃ。円堂の守っているゴールの脇にある私の愛しのボール。今行くから待っててね!

「おい」

がしり、と効果音が付きそうな腕の掴まれ方をして、私は豪炎寺の方向いて口をへの字に曲げた。力強く掴んだくせに、すぐに力を緩める彼は、私にその手を振り払って逃げて欲しいのか。

「何」
「ボールは人じゃなくてものだろ。恋愛対象にはならないだろ」

何をそう焦っているのだこの男。ゴール脇を見ると、ボールが魅力的に私を誘っている(気がする)。

「…だから…なんだ、その」
「早く言ってよね」
「…っ!」

ぐい、と腕を引かれて、「わ、わ、」と言いながらバランスを崩し倒れかけた私を、豪炎寺は少し乱暴に抱き寄せた。いわゆる、抱擁、というやつ。びっくりして頭の中が真っ白になった時、頭上で奴の声がした。

「行くなよ。」






ボールは無機物ですよ所詮、
必死になる君が好き




 

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