高校生吹雪






吹雪士郎が私のことを好きだという噂が、昼休みにポッキーを食べていた私の耳に入ってきた。私にそれを言いに来た友達は酷く興奮している。

「いいなぁ〜!吹雪くんに好きになられるなんて」
「一体どんな手を使ったの!?」

私は別に何をしたわけでもない。吹雪士郎とは何の関係も無いし、ただ一つあるとすれば委員会が一緒なこと。(吹雪くんは別のクラスだけど)それでもよく話すわけじゃないのに、吹雪くんは私のどこを見て好きだと思ったんだろう。そして噂として流れてるってことは、吹雪くんが周りにそう漏らしたのか。意外と軽々しい男だ。でもそんなこと言ったら目の前の友達に怒られそうなので黙っておいた。






友達と雑談をしていたら日はとっくに暮れていて、帰り道は薄暗かった。駅までの道のりが少し長い。入学当初、先生が「変質者には気をつけろ」とか言ってたな。だけどここは人通りの少ない場所。変質者も出ないような辺境の地に、危険など無い。その時、小さな足音が聞こえた。しかし小さい。まだ遠い。そして前から誰かが歩いてくる。よく見るとお父さんと同じような年の人だ。道は細く、一本しかないので、前から来る相手を避けて通り過ぎようとする。と、予測していなかった事が起きる。手を、掴まれた。

「えっ?」

私が驚いてる間にも、もう一つの手が伸びてきて、私の二の腕をしっかと押さえた。ここで私は危険信号を発する。これは…変質者!

「きゃぁぁぁぁ!!」
「チッ」

舌打ちをされて口を塞がれる。油断した。人通りの無い道だからといってのんびり歩くんじゃなかった。息の荒い男で、私の耳に息遣いが届く。鳥肌が立つくらいの気持ち悪さを兼ねた男だった。助けて欲しい。でも人通りの少ない道だ。周りの状況は絶望的だった。

「何してるの?」

声は暗闇から響いた。鈍い音がしたかと思うと、男が私から手を離し地面に倒れ込んでいた。呆気に取られる私に、大丈夫だった?と手を出して眉を下げた吹雪くんが私の視界に入ってきた。

「え、吹雪くん?」
「僕の名前知っててくれたんだ、嬉しいな」

いや嬉しいも何も、あなたすごい噂流してくれてるじゃないですか。噂の対象となっている当人が知らないなんて、余程の鈍感でない限りは有り得ない。
とりあえずお礼を言う。

「ありがとう」

すると吹雪くんは目を細くして口元を緩ませた。

「ううん。危なかったね。家まで送ってあげるよ」
「えっ?」
「あ、いや途中まで送ってあげるね」

最後の方が聞こえなくて聞き返したら、慌々として手をぶんぶん振る吹雪くん。意外に天然?天然たらし…だったりして。送ってあげる、という言葉に甘えることにして、私たちは並んで歩き出した。






家の三百メートル前で別れた。明日また、と笑顔で言って帰っていった吹雪くんが、私を好きな感じにはどうも見えない。好きなら、今、告白の一つや二つしていかないか。何もなかった。吹雪くんからは自分の部活の話、クラスの話、最近面白かった話しか聞いていない。本当なのか、あの噂は。本当に吹雪くんは私が好きなのか。違うんじゃないか、私と誰かを間違えてるんじゃないかと疑念が渦巻く。

次の日、放課後の小テストを終わらせ、帰路につこうとした矢先、「ナイスシュート吹雪!」と聞こえて足を止める。校庭に目を向けると、ゴール前で仲間とハイタッチしてる吹雪くんを見た。笑っている。

(…かっこいい)

練習を見て行こうか、考えるがやめる。別に私は吹雪くんと関係があるわけではないし、今だって変な噂が落ち着いていない。そんな状態で吹雪くんの練習でも見ようもんなら、たちまち、噂は本当だった、という噂が流れるだろう。噂を噂されるのは複雑だしあまり気持ちのいいものではない。それに、きっと吹雪くんの噂の相手は私じゃない。だから帰ろう。心残りが無いと言ったら嘘になる。

「名前ちゃん!」

私を呼ぶ声の主は、今頭を駆けていた彼、吹雪くんだった。校庭を見ると、吹雪くんが私に手を振っている。周りが少しざわついた。

「吹雪くん!?」
「どうしたのー?練習見に来てくれたのー?」
「んーいや、別にー!」

吹雪くんがこちらへ走って来た。よく見るとユニフォームが少しだけ汚れていて、顔にも砂がついていてあの綺麗な銀白の髪も煤けた感じになっていた。それだけ練習に夢中だったんだな、と推測出来る。吹雪くんは息も乱さず言った。

「練習、見てってよ」

また分からない。何故私に頼むのだろう。ちょっとそこらを見れば、芝生の坂に腰掛けて練習を見物してる女子だってちらほら見えるのに。やっぱり噂の相手は私なのかな。

「それとも忙しい?」
「いや、大丈夫。いいよ、ちょっとだけ見てくよ」
「本当!?やったあ!」

子供のような声で喜びを口にする吹雪くんに、私は笑顔になる。吹雪くんはそんな私を見、さっきの子供な雰囲気から一変、真面目な顔になって私を見つめた。私も、突然の吹雪くんの変わり様に戸惑う。怒った?笑って欲しくなかったとか。

「名前ちゃん。僕、真剣だからね」
「…?え?」
「今からメンバー内で試合するんだ。その試合を最後まで見て欲しい。それで、」

吹雪くんはその青く透き通る瞳を僅かに赤らめた気がした。

「僕が君にかける想いを、これからサッカーで表現するよ。もちろん、それは僕からの告白だからね」






校庭でね
その時惚れてしまった


 

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