臆病ガゼル






仲の良かった晴矢が私を睨んだ時、エイリア学園が嫌いになった。喧嘩の仲裁をしてくれたヒロトが晴矢に罵詈雑言を浴びせられている私を見て冷たい目で笑った時、エイリア学園という“収容所”がくっきりとその存在を浮かび上がらせた。それから、怖い、という感情を知った。そこで私は全てを悟った、私は弱い人間だった、大事な友を守れず、守りたかった彼らは今私を見てくれない。今まで十四年間培ってきたはずの私たちの繋がり、つまり絆、それが絶対服従の存在の出現によって跡形もなく消え去ってしまった。耐え難い。非常につらい。胸が張り裂けそうで、喉を掻き切りたい。死にたくはない。私は喉のこの苦味を消し去ってくれる何かを求めている。そんな時、園でも見たことのなかった人間が、部屋に入ってくるなり座る私の前に立ちはだかった。

「……えっと、ガ、ガ何だっけな、うーんと…ガ…ガ…ガザ、違うな、ガゼ、うん?あっガゼルだ!」

誰の名前を呼んでいるのか。はじめ分からなかったが、私の“新しい名前”のことだと記憶に思い出す。私を見下す女は、すごく愉しそうに笑っていた。

「……」
「私の名前は、名前っていうの」

そんなこときいていない。勝手に自己紹介を始めた名前とかいう女は、しゃがんで私と目線を合わせた。

「ガゼルは、まだ泣かないの?」

泣く?何故泣く必要がある?しかも女の前で泣けと言うのか。私には一応、プライドがある。女の前で弱みを見せたくないのはプライドの一部で、弱気になっているところを見せないのもその一部だ。男なら普通思うだろう。名前はそんなこと知らないと言わんばかりの表情で、私の顔を覗き込んでくる。程よい距離のおかげで心を見透かされなくてすみそうだ。

「……泣く?何故泣かなければいけない。何も悲しいことなど無い」
「え、そうなの?…あれー?」

今度は何を不思議に思ったのか、目を見開いて頭を軽く掻いた。

「グランとバーンはこう言ったら泣きついてきたのになぁ」

瞬間、私の目も見開かれた。今の、こいつの言葉は?あの二人が…?泣きついた?

「――っおい!今のっ…」
「私ね、吉良さんにカウンセラーとして雇われたんだ。すごいよね、だってガゼルと同じ歳だよ?」
「うるさい、私の話を」
「何で私がこの役割を与えられたか分かる?」
「わっ私の、話を、」

あれ、おかしいことが起きた。私の目から何か流れている。温かいような冷たいような、不思議な―…。……これは、涙だ。名前は何も言わなかった。ただ、涙を必死に拭い取ろうとして俯く私でも分かる。彼女が私に優しい目を向けているのが。私の話を聞かないのに、名前は私に必要な存在じゃないかと、そう感じ始めていた時、私は名前に包まれた。同じ歳とは思えない。

「意地っぱりはもう終わり、ガゼル。グランとバーンも頑張ってるから、ガゼルも頑張ろう?そしたら、また三人仲良く出来る日が来るよ」
「ほん、とに?」
「本当。私、嘘はつかないの」
「名前、名前…傍に、いて欲しい」
「うん、いいよ。ずっと一緒にいてあげる」

名前が私たちのカウンセラーになった理由。それはきっと、私たち孤児の気持ちを分かるのは同じ境遇の者しかいないからだろう。私を抱きしめる名前の洋服の袖に、彼女の名前と孤児院名が書いてある。






吐いたバナナ


 

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