いたずら吹雪






よいしょ、と老爺のような声で私の隣に座った吹雪は、ポケットの中に手を入れて白い息を吐いた。冬だね、と。

冬だよ、と答えると白い息を沢山吐いて、そうだねと笑った。私は吹雪がよく分からない。女の子に人気なのに傲らず、成績は多分優秀(多分といったのは吹雪の通信簿を見たことがないからだ)、おまけに性格がぴかいちとくれば、私も惚れないわけがない。つまり吹雪が好きなわけだが、彼のことをどうにも分からない自分がいる。最近よくしゃべるけど、吹雪を好きな女の子たちにいじめの標的にされないか心配だし、吹雪にこの気持ちが悟られないかもすごく心配だ。勘のいい吹雪、彼は私の心臓のリズムに気づいているのだろうか。

校庭とされるスケート場で五、六人が皆軽やかに滑っている。私もこれから滑るつもりだ。隣に座る吹雪に全神経を集中させ、上からさあさあと降ってくる粉雪に少しばかり身を預けると、横から視線を感じた。全身の毛が逆立って鳥肌が立つ。動物的である。

「ポケットに飴入ってた」

吹雪を見ると、ポケットに飴は入っておらず、開いた拳は空虚を覚えた。吹雪の行動に首を傾げずにはいられない。何がしたいの、ときけたらいいが私は小心者だ。今のこの状態でも、誰ともなくごめんなさいを言いたくなる。私は体育座りになってスケートをする生徒を見つめた。

「好きだよ」

吹雪はそう言った。頭の中でそれが理解出来たのは十秒後だった。正確にいうと、言われた瞬時に理解出来たのだが、あまりに衝撃的だったもので自問自答を繰り返していたら十秒も経ってしまった、と言った方がいい。横の吹雪を見ることが出来ない。冗談であれと思う反面、真実であるのを望む自分がいる。

「な、何が好きなの?」

自分でもびっくりするような質問を投げかけたなぁと鼻の上に降りた雪を感じ思う。聞かないまでも、のこと。吹雪からの返答は随分時間が経ったように思う。まさかあんな答えが返ってくるとは。

「粉雪」

え、と漏らしてしまい顔が赤くなるどころか真っ青になる。今の声、絶対聞かれただろう。案の定だ、吹雪が少しすり寄ってきて、耳元でアルトが踊った。何だと思ったの?
もう逃げたかった。ここまで近くに吹雪を感じたことはない。私が悪くないのは明確だ。隣に腰かける吹雪が悪いのだ。回らない呂律で必死に答える。

「いや、別に何、でもない」
「本当にそうかな?」
「うん、そう」
「実は僕が君を好きだって意味でも?」
「う…ん、え?」

思わず横に振り向いてしまった、瞬間私の目を吹雪の目が射抜く。私の体はすっかり固まり、もう何も考えられないでいた。自然な音でさえ何一つきこえない。今、彼は私に何を言ったのだ。

「冗談だよ」

私の目先に膝小僧が映った。吹雪は私に失礼極まりなく尻をはたくと、じゃあねと呟いて校庭に向かっていった。よく見たらスケート靴を履いている。それからは私の方を見ることもなく、吹雪は周りの視線を一身に集め校庭を滑っていた。「冗談だよ」あの言葉が冗談にきこえないのは私だけなのか。






等閑視するメンタリティ


 

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