寝ぼけるカイル






カイルは目覚めが最悪らしい。ザックがため息を吐きつつ愚痴を漏らしていたのを覚えている。そんな彼らのチーム、デザートライオンが世界と戦うときいて、私は自らマネージャーを引き受けた。私とカイルは付き合っていたし、カイルからはよくマネージャーのお誘いがあったので、これを機にカイルのサッカーをする姿を間近で見られたらなと思うのもあってのことだ。予想通りマネージャーの仕事は楽なものではなかったし、メンバー一人一人の体調管理もしないといけない。だけど苦にはならなかった。むしろやりがいがあって、毎日が楽しかった。
そんな、イナズマジャパンとの対戦を目前に控えたある日のことである。

「名前、お願いがある」

朝、ザックが神妙な顔つきで私に頼み込んできた。サッカーをやっている時とは違う真剣な表情。何かあったのかと私は心配になる。誰か風邪でも引いたのだろうか。

「オレたちデザートライオン全員からのお願いだ。ビヨンを、ビヨンを起こしてきてくれないか」






ザックに一つ、この前の出来事を話してもらった。ザックが、あのフィールドに立つカイルからは想像がつかないくらいの寝起きの悪さを感じたのはその時で、タオルケットをはがしたら恐ろしい形相で蹴られたそうだ。以来ザックは朝のカイル恐怖症になり、他のメンバーも、毎朝誰が起こしに行くかでじゃんけん大会を繰り広げているようだ。その前に、

(カイルって一人じゃ起きられないんだ…)

子供な一面を知ってしまった。あのクールなカイルが人に起こしてもらうなんて、彼女の私に知られたことを聞いたらどうなるのだろう。反応が見てみたいところだ。
部屋の前に着いた。合宿の時くらいしっかり起きて欲しいと思いつつ、遠慮がちにドアをノックした。

「カイル?入るよ」

ドアは開いていた。別に鍵をかける間柄ではないので、ノックして入らなくてもいいのだが念の為だ。ベッドに目をやると、タオルケットが少し盛り上がっていた。カイル以外有り得ない。私はベッドの傍へ行き、躊躇いながらもそれを揺さぶった。

「カイル、カイル」

反応はゼロだ。微動だにしない。

「起きてカイル、みんなもう朝食食べ始めてるよ」

言ったあとは沈黙であった。まだ寝ているのか。寝息を確認しようと体を屈ませた時、いきなり手が伸びてきて右腕を掴まれた。体勢を崩しベッドに倒れ込む。

「カイル!?」

ベッドから降りようともがくが、カイルの手が私の腕を離さない。離すどころか、もう一方の手が伸びてきて私の腹を服の上から撫でた。ひっ、と短い悲鳴を上げると、耳元で朝特有の掠れた声がした。

「ん…名前」
「カ、カイル。おはよう」
「…眠い」
「えっ?なっ、ちょ、やめっ」

私の腕を掴んでいた手が胴体の方へ滑ってきた。まさか朝から盛ってるというのだろうか。それは困る、こんなんでマネージャーが休んでいられるか。休まない為には行為に及ばないこと。私は何を言われても抵抗するつもりでいた。いたのに、カイルは予想外の動きを見せた。

「あと五分…」

あろうことか私の背中に頭を乗せて眠りだしたのだ。私は思考停止してしまって、抵抗する気も失せる。途端に恥ずかしくなった。しかし動けない。こうもしっかり乗られてしまっては、自分一人ではどうしようもない。ザックに助けを求めて来てもらおう。ザック、と声を出すとカイルの体がぴくりと動いた。起きてるのか。

「…起きてるの?」
「名前…」

力を込めて抱きしめられる。普段と違うその声に、私は胸が鳴った。いや、ときめいている場合ではない。

「カイル、もう起きて」
「オレと一緒にいる時は…他の奴の名前を呼ぶな…」

うーんと唸ってタオルケットを被ったカイルを、私はもう起こす気になれなかった。今起きたら、この赤く染まった頬を見られてしまうから。私はシーツに顔を押し付け、カイルと一緒に眠ることにした。ザックには申し訳ないけど、これからもチームの全員でじゃんけん大会をやってもらうことにしよう。






眠りの神より


 

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