今日こそ、今日こそ話しかける。そう決めてからどのくらい経っただろう。手帳に「今日決行!」とピンクのペンで書いてから、今日でちょうど三週間だ。
三週間前に私のクラスに転入してきた豪炎寺。何だか円堂が騒いでいたけれど、私は円堂そっちのけだった。中学生には無い大人びた雰囲気。クールな目つき。一目で私は、豪炎寺にどきどきしてしまったのだ。恋を、してしまったのだ。

「どうした?」

顔を覗かれ、私はその拍子にぎゃあ、と短い悲鳴をあげた。幼なじみの風丸が、私を訝しげに見ている。可愛くない声で悪かったな!

「なんだ風丸か…」
「なんだよその態度。オレじゃ不満なのか?」
「不満というか…」

視線を遠くに、豪炎寺の姿を見つめた。窓側の一番後ろの席、そこが豪炎寺の席。ちょっと離れているけれど、休み時間や給食の時間になればいつだって見られるのだから我慢出来る。風丸は私の顔をとぼけた表情で見、口に弧を描いた。

「豪炎寺か」
「は!?」
「気になってるんだろ」

違うと否定した時に、思いもよらず酷く噛んでしまった。決まりだな、風丸はにやり笑う。幼なじみとはこうも鋭いのかとたまに苦手に思うことがある。しかし、その後風丸は協力すると言った。幼なじみとはこうも頼りになるのかと、苦手意識から一転、最強の味方になった。

風丸いわく、豪炎寺は冷たい印象があるが芯は熱い男らしい。円堂の超クール版だと思えと言われたが、豪炎寺はかっこいいんだよ!と目をむいて言い返せば、結局どうでも良くなった。風丸は笑っている。だけどその笑みが爽やかな方ではなくて、こう…嫌みに笑う時の笑みだ。

「風丸?何がそんなにおかしいの」
「お前、後ろ…」
「何なの――」

私の後ろを指して笑うので、半分やけになってバッと振り返った。途端、私の目に信じられない姿が

「…あ、風丸。ちょっといいか」
「ご…え、え?豪、炎寺…?ちょ、風丸」
「豪炎寺。何か話があるのか?」
「無、視しないでよ、ねぇ風丸」

風丸は完全無視、私に見向きもせず豪炎寺と教室を出て行った。思考がフリーズしたまま、私はその場に立ちっぱなし、取り残される。誰か、誰でもいいから私に話しかけて、私のこの固まった脳を働かせてください。






どうしよう
今の、きかれたかも


 

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