memory of spring | ナノ



新作商品ばかりを手にとって、結局財布からお金は出さずに携帯で支払った。店員の機械的な言葉を背にコンビニを出ると、さっきまではいなかった不良が数人、グラビア雑誌を囲んで地面に座り込んで、下品な話で笑い声をあげていた。

ああいう話に別段軽蔑はしない。公立に通っている以上そういったものは覚悟していたし、そういう話題を敬遠するとまた何か言われるかもしれないと不安を感じたからだ。これまで、家柄は何をするにも自分の後ろをついてまわってきた。人と違うことをするとすぐに「お金持ちだから」で片づけられてしまう、だから友達に合わせた。友達が好きだと言ったドラマは毎週欠かさず観て次の日に感想を言い合った。好きじゃないドラマの時は苦痛だった。それでも話の輪に入りたかった。本当は外国の写真集を眺めている方が幸せなのにそれを抑え込んだ。少しでも特別なことをすれば私は後ろの「お金持ち」という言葉が出てきてしまうんだから。

(…高野くんも、私のこと特別に見てたのかな)

恋愛感情の方ではない、特別な方へ。私に好きだと言ってくる子は、大概、私のバックにあるものしか見ていなくて、だから父に連れられての会合などは行きたくなかった。私は一人っ子だ。父は大きな権力を持っているから、私を隣に携えて色々な人と話す。普通は母が私の位置にいるべきなのだが、母は母で仕事の付き合いがあるから、父の隣は必然的に私だったのだ。父の部下は、私を見ては「かわいいね」と言った。決まり文句のようにみんなそう言った。気持ち悪くなる程だった。次第にかわいいという言葉がトラウマになった。ここまでお金持ちをいやがるなんて珍しい、と母は頬に手をあててしみじみと呟いたが、父は何も言わなかった。
中学生になると会合に行きたがらなくなり、会場で私のことをきかれると「思春期を迎えたようで」と笑い話のようにごまかした、と母が諭した。私が高校生になってからは海外出張が増えた。今回の長期の出張の時には父が私を一緒に連れていきたがった。言葉などどうにでもなる、一応お前のお付きも連れていくつもりだ、と説得させようとした。私はそれを聞いて強く反対をし、ついに両親は私を置いて海外へと飛び立った。

暗証番号を入力し、続いてカードキーを読み込ませる。自動ドアが開いて、私はそこを足早に通り過ぎるとエレベーターに乗った。最上階を押す。静かにドアが閉まる。高校に程よく近いが、ここらで一番高級なマンションだ。ここは高校に進学してから父が買った。本当の自宅はもっと広い。ここはいわば私の「部屋」なわけだ。母は寝泊まりするが、父はほとんどここには寄りつかない。私によくメールはしてくれるが、仕事が忙しくて会うことは滅多にない。愛されていないわけではないのだ。だから孤独を感じることはない。
エレベーターのドアが開いて、私は一番奥の自宅を目指す。ロビーからの風が吹き抜けを通って髪に絡む。角を曲がった時、家の前に人影を見た。

「……誰?」


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