宇宙人は実在する。人間が地球で生命を産み、生活を営んでいるこの瞬間にも、遠い星で同じように存在している。その形態がどうであってもだ。

「夏彦の言った通りだった」

最近では、宇宙人は既に地球への侵略行為を成し遂げていて、人間に擬態してこちらの生活を観察しているとも噂されている。彼らが何を考えているかなど、私たち地球人の知る由はない。

「ヒロトくんは、きっと宇宙人だった」

夏なのにダウンジャケットを着て、高い牛肉ばかり買って、鍋料理を食べかつ周囲に気づかれにくいだなんて、未知の生物である宇宙人以外の何者でもないだろう。今まで私はずっと宇宙人と話していたのだ。なんでもなかった(少し楽しかった)時間がいきなり希少価値のあるものに変貌をとげ、私はただただ戸惑っている。
ヒロトくんと最後に会ってから数日、今日は夏彦に無理を言ってバイトあがりにファミレスまで付き合ってもらった。私が誘った時に予想はついていたんだろう、夏彦は文句の一つも言わず私の申し出に頷いた。

「宇宙人だっていう可能性は低いと思うけどな」
「そうなの?夏彦が言ったのに」
「まぁな」

頼んだ料理がくるとしばらく静かになる。金曜日でもない平日のこの時間はあまり客がおらず、スタッフは若干の暇を持て余しているようだった。
ヒロトくんは本当に来なくなった。もしかしたら昼間に来ているのかもしれないと、それとなくパートさんに訊いてみるが望む答えはもらえない。気づかれにくい為にパートさんの意識に入っていないだけという可能性もなくはないが、かれこれ二週間が経過しても何も言わないので、やはり来ていないんだろう。

「お前はあいつが本当に宇宙人だと思っているのか?」

以前も同じことを訊かれたが、今も明確な答えは出せないでいる。

「……分からない。ヒロトくんが宇宙人だったらものすごいことだし、そうじゃなくても宇宙人みたいに変わってる子だよ」
「宇宙人だとしたら、わざわざあんな目立つような行動しねえと思うけどな」

そうか。そうだよね。夏彦の言葉に納得してしまった。地球にスパイ活動をしに来ているなら、そんな奇行に出ないはず。それに、偽名かもしれないけれど、ちゃんと名前だってあった。

「夏彦」
「なんだ」
「ヒロトくんにもう一度会いたいと思う?」
「え?いや全然」

なんでもないことのように夏彦は言った。あっけらかんと言うものだから、一瞬理解が出来ず曖昧な返事をする。しかし、すぐに言葉尻を捕らえ噛みついた。面倒くさそうな顔でこちらを見ても、簡単に引き下がるつもりなど毛頭ない。

「あいつと会ったところで何も話すことねえし、あいつだって困るだろ」
「困る?」
「お前に会いたくないから来ないんじゃねえのかよ」

刺さった。すぐに慌てて「いや、引っ越しとかの都合があって来られなくなった可能性も、お前に言いづらかっただけかもな」と弁解をしてくるが、一度刺さったものはそう簡単に引き抜けない。言葉はエイの尾のように、一度刺さったら抜けない刺があるのだ。どんな微細なものでも、ずっと心をちくちくと痛め続ける。

「……夏彦」
「はい」
「発言には気をつけてね」
「了解です」

メインディッシュであるハンバーグを全て細かく切り分け、ライスの皿を片手に持った夏彦が反応するより先に、真ん中の四角くなったハンバーグにフォークを突き立てた。肉汁がじわりと皿を濡らす。

「あっ、ちょ、おい名前!ふざけんな!」
「一つちょうだい」
「刺す前に言え!」
「うっ、さっきの言葉が胸に」
「……半分やる」
「そんなにいらない」

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