不釣り合いだ似合わない、あんたみたいな阿婆擦れがどうしてあの人の隣に並べるのか、そんなことは随分と言われてきた、ただそれを彼に知られたくなかった為にわたしはひたむきにそれを隠してきた。隠して、彼の笑顔に笑って返事をしていた。それがなんでどうしてこんなことに、いやこうなる運命だったのだと納得すれば出来ないこともない、だけどやっぱりこんなことは信じられないわけで、わたしは泣きたい気持ちを抑え目の前の女集団を見て痛みから意識を遠ざけようとした。

「近づかないでほしいの」

はた迷惑な話だ、彼氏と一緒にいないで欲しいなど、少し考えれば不可能、無理なことだと分かる。でも目の前の女たちはそのことが分からないみたいで、わたしに彼氏との別れを強要してくる。だから無理だって。あっちもわたしのこと好きなんだし、そう発言すればぶっ叩かれた。いった、女なのに何この怪力。妖怪なの?化物なの?本当はそうおちょくってやりたいが、今は集団の数的にちょいと無理な話。

「マジうざい」
「死ねよ」

でもさ、これで仮にわたしが別れたとして彼がフリーになったら、また熾烈な争いでも繰り広げるんでしょう、そして誰か彼の女になろうもんならその子はわたしと同じ目に遭う。そんなことの繰り返しなんだから今わたしが別れても彼の彼女が変わっただけで、こいつらのすることは変わらないと思う。

「別れても向こうがわたしのこと離さないと思うよ」

ちょっと女集団の悔しい顔が見たくなって、彼女だけに許された特権を使ってみた。周りのみんなの顔がかあっと赤くなり、ついに怒りを爆発させた。あ、いい顔。

「――っふざけんな!!」

パシィン、その音は校舎全体に響き渡ったんじゃないかというくらい大きな音で、でも誰も窓から覗いたりしないから今の音はわたしだけが大きいと感じた音なのだと思った。痛みで頬がじんじんする。

「った…」
「調子のるのもいい加減にしな!照美くんは…」
「僕が何だって?」

女集団が一斉に右を向いた。わたしは見なくても分かる、が、今のが結構きたみたいで頭がふらふらして、キャント、見られない。さっきわたしを殴った女が真っ先に顔を青くして半歩後ろへ下がった。

「名前をこんなところへ連れ込んで何をやってるの?」
「こ、これは…」

わたしは後ろによろけると壁に背中をぶつけた、力が抜けそのまま壁伝いにずるずる座り込む。あ、ここ校舎裏なのに壁に制服付けちゃった、汚い。女がわたしをじろりと睨んだが、アフロディがそれを見逃す筈はなかった。

「僕の彼女に、随分陰湿で手荒な真似をしてくれたね」
「ちがうっ…」
「違う?」

女集団は皆竦んで動かなくなった。アフロディは怒ると怖いんだよ、女でも容赦ないんだよ。まぁ、当然の報いだよね。女たちをひとしきり睨みつけたあと、アフロディがわたしの元へやって来て、…あ、やばい怒ってる。

「名前」

声音がいつもと違う。微笑んでくれるような優しい面影はこれっぽっちもなく、心臓が縮んでしまうくらいの眼力と雰囲気でわたしを見下ろす。

「これが初めてじゃないだろう」
「うん…まぁ」
「どうして僕に言ってくれなかったんだ」

だって、アフロディはサッカーで忙しいし、そこまで言ってちょっと大きな声で叱られた。こ、こわ…!ここまで怖いとは予想外だ。

「僕に真っ先に言うべきだろ!何で君はそうやって自分一人で解決しようとするのかな…!!」

ぎゅ、と抱きしめられて、わたしはわざとぐえっと声をあげた。少しむっとしたみたいで強く抱きしめてくる。痛い痛い、離して、わたしの目の前にアフロディの顔が来たかと思うと、いきなり体が宙に浮いたような感覚になった。え?

「!アフ…」
「あぁ、もう一つ言っておくけど」

お姫さま抱っこやだ下ろしてというわたしの声を無視してアフロディは女集団見て言い放った。

「名前呼んでいいって誰が言った?次そんな呼び方したら許さないよ」

あ、今のかっこよかった。






保健室を出ると外にアフロディが待機していた。

「練習は?」
「ヘラに任せてある」

ふーん、そうなんだ。アフロディはわたしの腕を掴み、そのまま手を下げ指を絡めた。

「アフロディ?」
「さっきは君を責めるようなこと言っちゃったけど、気づけなかった僕も悪かった。ごめん」

謝られた、けど。悪いのはわたしだよ?わたしがアフロディに言わなかったから気づけなかっただけで、別に自分を責めなくても、そこでわたしの言葉は遮られた。唇に確かな温もり。温もりが離れるとアフロディは微笑んで首を傾げた。彼がこうやって笑う時は“もうこの話は終わり”という意味とその他諸々を含めている。わたしも微かな笑みを浮かべ、指に絡みつく彼の指を小さく握った。

「名前のことだけど」

アフロディがさっき女集団に向かって言っていたことを切り出した。本名は知ってた、わたしも初めは照美って呼ぼうかなって考えたけど、やっぱりみんなが呼んでいるアフロディの方がしっくりくるし、アフロディ自身もその方がいいから誰にも呼ばせていないんだろうな、と自分の中ではそういうことになって彼を他人と同じ呼び方にしていた。照美って名前女の子みたいだ

「君だけは特別だよ」

し、…え?特別って、つまり、彼を、照美って呼んでいいってこと?でも今更って気もするよ。今の今までそんなこと言わなかったのに、いきなり本名で呼んでいいなんて、頭の中がぼやける。もしかして夢と思って頭を叩いてみた。痛い。

「っ本当?」

うん、と返事をする代わりに彼はにこりと笑ってみせた。わ、わ、かっこいい

「じゃあ…照美、くん」
「僕のことアフロディって呼んでた時はくんなんて付けなかったのにね」
「…照美」

いやに彼は策士だ。ちょっと悔しいようなむっとするような変な気持ちになったが、わたしの名前を呼ぶ彼を見ていたら、そんなこと薄くなって消えていく飛行機雲みたく無意味に思えてきて、呼応するように照美、と名前を呼んだ。






くんづけ
わたしもちゃん付けいやだもんなぁ


 

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