そうなんです。そうなんです。女はしきりに言葉を繰り返した。
 アミエルって女がいまして。あたくしより三つも年は下ですのよ。なのに大人びた顔立ちときた。目は大きくて透き通るような水晶玉、髪は艶があってすこうし茶色かしら、肌はもうまるでお人形さん!唇はクリイムを塗らずとも潤いがあります。ええ、ええ、純粋な日本人ではないの。母親が西洋生まれです。高等学校を卒業する迄向こうにいたものですから、西洋の言語が話せますわ。日本語も今は不自由なく使って、日常生活に困ることは無いんですって。……あら、あなた。アミエルをあたくしの何だと思ったの。知り合いだなんてとんでもない。人から聞いた話よ。単なる噂ですわ。アミエルって女が本当にいるかどうかは分かりませんけれど、なにぶんあたくしの近所で盛り上がっているものですから、あたくしも話してみたくなったんですよ。
 女はさほど噂が好きではなかった。女は嘗て一生を通じて未だ潔癖であった。自分にとって其の物や事が得か損か、そんなものしか考えなかったのだ。では、この話は女にとって得なのだろうか?或いは損ではないのか?尋ねれば、やあだと言って女は白い歯茎を見せて大笑した。あたくしのこと、そんなツマラナイ女だと思ってたの。どうかしてるわ。あなたは頭が可笑しいひと。
 確かにね、そうやって物を測る時は有るわ。でも誰にだって有るわ。寧ろしないで生きてきた人がいたら、それは神仏様が此の世に御降臨なさった時の、玉のように光るお姿だけですわよ。先ず人間では有り得ない。こんな醜い性を彼らの前に曝け出してのうのうと生きている人間の、何処に潔癖を見出せばいいのかしら。
 ううむと顎に手を遣るしかなかった。女は中々上手らしい。きっと上流階級で乳飲みしてきたに違いない。彼女の豊富な言葉の裏に確たる持論が息を潜めているのだろう。そうだけあって、自信に溢れた態度が違和感を厳しく排除する。慎重に言語を選り抜いていかなければならぬ。






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ここまでです。少し古い雰囲気にしたくて、文面もちょっと言い回しに気をつけました。特に何が書きたくて、というのはなかったです。
読んでくださってありがとうございます!


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