隣で寝息が聞こえた。どうやら僕は眠ってしまっていたらしい。その音で目が覚めた。
向かい側の窓の外を見れば、空は墨でも塗りたくったように真っ黒、冬というのは全くモノクロの世界である。喜びと嘆きに満ち溢れる聖日はとうに過ぎ、あと残り二日で年があける。僕は予備校の帰りだった。
携帯のサブディスプレイを見れば、もう十一時になろうとしている。寝ながら手に持っていた暗記ブックを開こうとして、やめた。今はそういった気分じゃない。そんなこと言ってる時間もないのだけど。電車に乗る十数分くらい、受験生をやめたっていいだろう。

ちかちかとメールが来たのを知らせる携帯に触った時、肩にずしりと頭が乗っかってきた。だけど僕は三年に進級するまでスポーツをしていた、体力は他の人よりある。頭の重さくらい、どうってことない、とまではいかないが、別段苦痛になることはなかった。誰だって疲れている。増してや今日は金曜日。僕が我慢することで隣の人の疲れが少しでも取れるのだったら、なんて。自分を犠牲にしても仕様がないのに、と自分を笑う。

「…ん……?」

あぁ!――その声は電車の中にはっきりと響いた。すぐ近くから聞こえた。耳にかかるように。そう、僕の隣から。

「寝過ごしちゃった〜…!」

小声で、泣きそうな声で頭を持ち上げたその子――今気づいたが有名な進学校の制服だ――は、ごめんなさい、と僕に謝ると、携帯を取り出してどこかに電話をかけ始めた。電車の中なのに…。マナー違反だ。制服が制服なだけに少しがっかりする。目の前でつり革につかまる中年のサラリーマンが怖い顔でその子を見下ろした。アナウンスが駅への到着を知らせた。

「…もしもし?電車で寝過ごしちゃったみたいで、今から引き返す。うん、大丈夫。うん…うん、分かった。じゃあ」

ドアが開く。降ります、と眠気に満ちた空気をさいた声は、僕から離れて人の間をすり抜けていった。まぁ…例え有名校に通っていても人間的に未熟なのはごまんといる。彼女もそういうタイプなのだろう。前で立っていた男が隣に腰掛ける。ほんの少し、煙草の匂いがした。

「てめえ何してくれてんだあ!」

怒号が飛んだ。はた、と顔を上げるが、前に立つ人たちで声のした辺りが分からない。「今オレの足踏んだよなあ!ああ!?」酔っ払いというには意識がしっかりしている。若い男の声だから、チンピラといった類だろう。僕の両隣に座るサラリーマンも、しきりに首を声の方向へ伸ばしている。

「すみません!」

(この声は…)さっき隣にいたあの子だ。「今ので肩の骨が折れただろうがあ!」男はまだ言い続ける。骨折って、ちょっとそれは無理がないか…。




































受験生照美とヒロイン。この後チンピラからヒロインを助け出した照美はヒロインの最寄り駅まで戻ってあげます。着くまでに色々話をするのですが、そこまで書けそうにありません。話はさせたかったです……悔しい


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