ザザ…ン、ザザ…ン 灰色の雲が海を包み込むように空に広がっていた。ザリザリと砂浜の細かい砂が容赦なく私の靴に入り込む。ああもう気持ち悪い、脱いでしまおうか。条介にちょっと待って、靴脱ぐからと言うとそんな靴で砂浜歩くからだぞ、と言いながらも止まってくれた。靴と靴下を脱いでるとビーサンで来りゃよかったのによ、と条介が目の前で履いているビーチサンダルをほれほれと見せ付けるようにふる。いや、この服にビーチサンダルはありえないから、とぺちっと脛を叩いてやればおいおいサーファーでサッカー選手な俺の大事な足が名前の馬鹿力で折れたらどうすんだ。とけらけら笑った。そんな柔な足ならサーフィンもサッカーも辞めてしまえ、そう思ったけど口には出さなかった。彼からサーフィンとサッカーを取ったら何が残ろうか。ただのバカではないか。あ、言わないけどね。うん。 「に、しても、誰もいねぇな」 キョロキョロと海岸沿いを眺めた。当然ではないだろうか。つい先程ニュースで何やらとんでもない事が報道されたらしいじゃないか。私は観てなかったけど、親から今日はあまり外に出るなと言われたし。私がこうやって条介と浜辺を歩いているのだって、私がこっそりひっそり家を出てきたお陰だ。 「ま、二人っきりでいれっからいいんだけどな」 にっ、といつもの笑顔で条介が笑うものだから一瞬あ、いいのか、と納得してしまいそうになった。もはや私には何がよくて何が悪いのか考える事すら億劫だ。 私が靴を脱いで体を起こすと条介が目を細めてどこか哀しげに海を見ていた。 「海が酷い位時化てる」 「しけ?」 「おぉ、荒れてるってことだ」 荒れてるのか、私には良くは分からないが、いつも海にいる条介が言うのならそうなんだろう。潮風が私達二人の頬を撫でた。 「なぁ、ニュースは見たのか?」 「ぇ、ううん。ニュースやってたとき私自分の部屋に居たから…」 そっか、そう答えて条介は私の手を掴んでまた歩きだした。 「ニュースな、あー、細けぇことは俺バカだから分かんねぇんだけど、」 「地球にな、隕石が落ちてきて、地球が砕けるんだと」 ホントかどうかは知らねぇけどな、あっけらかんと笑った条介はいつもの条介じゃないように見えた。 「ま、ホントかウソか俺はどっちでもいいんだけどよ。どうせ死ぬなら大好きな海で、大好きな名前と一緒がいいと思ってな」 何故こうも彼はこんな恥ずかしいことをおっぴろげに言えるのだろうか。人がいないから言えたのか、ああいや、人がいたってお構いなしだ、そんなやつだよこいつは。 パッと海の方が急に明るくなった。 顔を海に向けて条介に連れられて歩いていたが条介が歩みを止めたお陰でボフッと背中に追突してしまった。ああもう、低い鼻が更に低くなったらどうすんだ。思って条介の顔を睨み上げようとしたら、思いもよらない近さに条介の顔があって、口が塞がれていることに気付いた。 「条、介?」 「ホントは目が醒めたらよ、全部夢で、またこうやってデートしたり、キスしたりしたい、って俺は思う。名前は?」 「私、も」 「そか」 条介がはにかんで言うと同時に私の手と条介の手が離れて、私は身動きが取れなくなった。ぎゅ、とまるで離したくないと言わんばかりに私を抱いた条介の背中に私も同じように手を回した。 次の瞬間に大きな津波に飲み込まれ、私達は抱き合ったまま意識を離した。 |