世界が終わる音がした。 | ナノ
先程テレビで隕石が落ちてくると報道されていた。別にテレビを信用しないわけではないが、別に何も気にせず昨日出された課題を進めた。

暫く課題を進めていたが、ふいに外を見た際に見知った人影を見つけて、気付いたら思わず外へ走りだしていた。今思えば見間違いだったかもしれないが、違うなら違うで気分転換になるし丁度いい。足早に先程の人影を探すがどの道にも人の気配を感じられない。ああ見間違いだったのかとスピードを緩め人気のなあいつもと違う道を堪能していたら前の方にまた見知った背中を見つけた。なんだ見間違いじゃなかった。ほっとしてまた早足に歩き近づいていく。

「名前っ!」

名前を読んでぱっと腕を取れば、俺の大好きな笑顔。この笑顔を見るとこっちまで笑顔になるから不思議だ。いや、ただの盲目かもしれない。

「幸次郎」
「こんな時にどこにいく気なんだ?」
「んー、牛乳買いにいこうと思って」

なんでもないように言った彼女。いつもならそうか、気をつけろよと笑いあえただろう。

「今からか?」
「うん。明日飲む牛乳なかったから」
「、明日って
「夢だから」

ふわり、笑った。
その笑みは、俺を幸せにさせる笑みではなかった。どこか寂しげで、泣きそうで。俺はどうすればいいのか分からなかった。

「夢なんだよ、隕石とか全部。だから、明日朝起きたときのために牛乳を買うの」
「…そうか」
「うん。」
「、名前、俺も牛乳買うの付いていっていいか」

ぎゅと手を繋いで有無も言わせず歩きだした。最初は俺が数歩先を歩いていたが暫く歩いているうちに繋いでいた手が斜め後ろから横に移動していた。チラと横目に名前を見ると足を大きく開いて早足で歩いていたので少し、名前の歩幅に合わせてやると、ほ、としたように顔が緩む。そんな名前を見て俺の顔も緩む。ああ、幸せってこうゆう事だ。部活のやつらにも教えてやりたい。あ、いや、嫌がられるかな。これって惚気か。うん、幸せだ。


「買えなかったな、牛乳」

二人並んで公園のベンチへ座る。で普段なら子供達で賑わう公園だが、今日に限っては誰もいない。暫く歩き回ったが、コンビニもスーパーもどこも開いてなくて牛乳はおろか食べ物も 何も買えなかった。皆家族や大切な人と一緒に最後の日とやらを過ごしているんだろう。

「いいよ、牛乳なんて」
「いいのか?明日の朝飲むんだろ?」
「んーん、明日なんて来ないでしょ、ちゃんと分かってるよ」

俺の腕にこめかみを擦り付けるようにもたれかかる名前。ただ甘えてるわけじゃない、そんな気がする。こんな名前は見たことない、いつも笑顔でふわふわしててかわいい名前じゃない。今日会った時もそうだ。やっぱり、もう明日が来ないからか。
人ってのは、明日があるかどうかで変わってしまうんだろうか。いや、俺は変わらない、明日があろうとなかろうと、俺は俺だ、名前が、好きだ。
ふと、名前が空を見上げていることに気付いた。

「幸次郎、一番星だ」
「一番星?まだ昼だぞ」

空を見上げた。
あった、確かに一番星が光っている、いや、流れている。それが隕石だと気付くのに少しの時間もかからなかった。ああ、落ちるんだ。ここから見えるってことはそう遅くないうちに落ちてくる。そうだ、最後に横で不安そうに空を見上げる彼女に一言言っておこう。

「名前、俺が名前を好きなことは、地球がなくなろうと変わらないからな」

最後に、私も、と聞こえたのは気のせいじゃないと信じたい。