世界が終わる音がした。 | ナノ
朝起きて、トーストを焼いて何事もなくテレビを点けた。

今日未明、アメリカの衛星により地球に隕石が落ちてくることが判明し、軍事による地球救命に各国が奮闘しているもようです。

口をあんぐりと開けて食べようとしていたトーストが皿の上に落ちた。何事だ。ぱっと立ち上がって今日の新聞を手に取り番組欄に目を通した。映画だろうか。どれだろう。番組欄に指をすべらせ、途中で気付いた。別に見ないから、どうでもいいか。さっさとトーストを食べてしまおう。私は急いで残りのトーストを口へ放り込んで、戸締りはしっかり、学校へ向かった。
本格的におかしいと思ったのは教室の戸を開けた時だった。いつもおはようと声をかけてくれる友達はおろか、もう八時を越え十五分と経っているというのに誰一人として教室、いや学校へ来ている者はいなかった。そういえば学校へ来る途中同じ学校の誰ともすれ違うことがなかったし、車だっていつもよりも交通量が少なかったように思う。そこまで考えて、深く考えるのは止めた。カバンを自分の席へ置いて、窓際の机の上に座り、ぼおっと外を眺めた。

それから数分経って、いい感じに外を眺めることに飽きてきた頃、漸くガラッと教室の戸が開いた。ぱっと振り向いて、なんだ、と後悔した。鋭い目付きが私を睨む、あ、いや、見ているだけかも。とりあえず挨拶はしておく。

「おはよう、不動君」

挨拶をして、不動君から返ってきたのは挨拶ではなく呆れたような罵倒だった。

「バカかよお前」

生憎とその通り、成績もあまりよくないなのでなにも言い返せない。でも不動君もそんな頭よくなかったよね、あれ、違った?違ったかも。と心の中でボケをかました。実際に不動君にこれを行ったとしてさらに罵られるのは目に見えていたから。

「今日、つかもう学校ねぇんだぞ」
「え?でも不動君は来てるし」
「そりゃ、お前、電話したのに出ねぇから…いや、なんでもいいだろそんな事」

不動君は苦虫を噛み潰したような顔をして頭の後ろで手を組んだ。

「何で来てんだよ、お前朝のニュース見てねぇの?」
「朝?見たかな、見てないかも」
「…、テレビ点けてねぇの?」
「点けたよ、何か映画やってたよ」
「しらねぇよ、どこのチャンネルだよそれ、つか大体のチャンネルは同じ内容のニュースやってたろ」
「チャンネル回してないから知らない」

私が答えると不動君は大きくため息を吐いて私の方へ歩いてきた。
あ、もしかしてあの映画ってニュースだったのか、と呟くと不動君に見てんじゃねぇかと舌打ちされた。

「何で来たんだよ、テレビ見たんだろ」

よっ、と勢いをつけて私の隣の机の上に座ってさっきのも言った事をもっかい聞かれた。

「何かの映画かと思って」
「お前バカだけじゃなくてアホだったんだな」

知らねえなら教えてやるよ。今、アメリカの大統領が地球から脱出した。各国のお偉いさん達もそれに乗じて地球からロケット発射するだろうな。足を組んで頬杖をついた不動君は空を眺めて言った。

「こんだけ言や分かるだろ?」

「俺らは見放されたんだ、人からも、星からも」

死ぬんだよ、と言った不動君の瞳にロケットが発射され飛んでいくのが見えた。

「ほら、日本のお偉いさんも今脱出成功だな」

飛んでくロケットを嘲笑うように眺め、不動君は私に視線を移した。何となく微笑んでいるように見えるのは私の勘違いか。

「な、もう数分で終わるぜ、世界。遺言とかそう言うのねぇの」

遺言って世界が終わるなら言ったって誰も叶えてくれないじゃない。そう口答えすれば、お前わかってねぇな、と本日二度目のため息を吐かれた。

「別に叶えてもらおうってだけが遺言じゃねぇだろ、言っときたいこととかそうゆうのだよ」
「ああ」
「ねぇの?」

暫く考えた。
その間は不動君も静かに私をじっと眺めていた。

「ない、かなぁ」
「お気楽でいいなぁお前は」

はっと鼻で笑われた。
ないものはないから仕方ないじゃないか。無理やり作る意味もないし。と口を尖らせる。飛び立って見えなくなったロケットを見上げて不動君は真剣な声で言った。

「俺はあるぜ」

「真剣に聞けよ」

不動君は身体ごと私へ向けて真剣な顔つきで言った。

「俺はお前のこと案外嫌いじゃなかった」