じょじょ四部 | ナノ
俺は少し、いや、だいぶカチンと来ていた。
ついさっき、駅前の大きな本屋へ行った帰りのこと。そわそわとしながら本の包みを抱えて歩いていると、数メートル先に仗助が横切って行くのが見えた。お、と思ったが、わざわざ用もないのに、見かけたからと言って声を出して呼び止めるのも面倒で目で追うと、向こうがパッと此方を向いて目が合ったのでよぉ、という意味で手を振ったのにアイツはそのまま横にいた友達らしきやつと少し話してとっとと先へ歩いて行ってしまった。手を振ったのに無視をされた言い知れぬ恥ずかしさは俺を激昂させるには充分だった。いや、少し盛りすぎた。そんなに怒ってないしただただ恥ずかしかっただけだ。ただいつかこの報復はしようと思ったのだが。
玄関の前にいる何故か顔に怪我をしている男、仗助をじと目で見ると、へらりと笑って「ちこっと、手当てとか、してもらいたいんスけど」と言った。こいつもっと申し訳なさそうにしろよ。
流石に街で見かけて目が合って手を振ったにも関わらず無視をされたからって、痛々しい怪我を顔にして来られたら仕返しをしてやろうという気にもならないわけで。俺は大きくため息を吐いてドアを大きく開いた。

「何してたらそんな怪我すんだよ、ほらあがれバカ」
「和真さんやっさし〜い!!」

じゃーしゃーす、と遠慮もなく部屋にあがる仗助に隠れて見えなかったが、さっき街で見かけた時とは違う友達も一緒にいたらしく、そんな彼にも「どうぞ」と入室を促すと、控えめに「あ、お邪魔します」と言って靴を脱いだ。仗助にもこれくらいの謙虚さを見習ってほしい。
とりあえず仗助の友人に出すお茶とコップ、それから手当ての為の救急箱を
持って部屋に行くと部屋では仗助と仗助の友人が床に座って待っていた。仗助の友人に「悪いけど自分で淹れてな」と言ってコップをテーブルに置くと、「お気遣いなく」と言って笑顔を溢した。仗助の友達にしてはえらく大人しい、いい子だ。

「仗助、お前いい友達もったな」
「へ?あぁ、康一つーんだぜ」
「広瀬康一です」
「へぇ、康一くん、俺松田和真」

よろしく、と康一くんと握手をすると怪我人から「そんなことより早く手当てしてくださいよォ〜」と文句が飛び出た。それが手当てされる人間の言葉ですかね。急かす仗助に促され救急箱を開けて消毒液やらを取り出すと救急箱の中を見た康一くんから「随分と道具が揃ってるんですね」と声をかけられた。確かにうちの救急箱は包帯やらガーゼやらのものが一通り少し多目に常備されている。理由というのもいつも怪我をす度うちにくるどこかの誰かさんの為なわけだが。

「俺怪我の手当ていっつも和真さんにしてもらってんだよ」

和真さんの怪我は俺が治す、俺の怪我は和真さんが手当てする。
そう説明する仗助の頬の傷に消毒液に浸したコットンを当てると仗助は痛い、と顔を歪めた。

「そう、だからうちには多分普通の家の救急箱より道具が揃ってるんだけど、正直俺はうちに来るより病院行った方がいいと思うんだけどな、俺も医者目指してるわけでもねーし」
「和真さんじゃどうしようもないのは病院行くぜ」

当然だろ、言葉と共に傷口にコットンを強めに押し付けると目に涙を浮かべて仗助はイテーよと顔を反らしたのでざまぁみろ、と歯を見せて笑ってやった。これで無視された分はチャラにしてやる。