(仗助視点) はっぴーばーすでーとぅーみー。 拙い発音で歌いながらあまり綺麗で新しいと言えないアパートの部屋のインターフォンを押すと俺の大好きな和真さんが怪訝な顔をして出てきた。何時だと思ってんだと文句を言いながらも俺が入りこむことが出来るだけの隙間を開けて俺の入室を促す。 何時だって?俺は一番に和真さんに誕生日を祝ってほしくておふくろに頼み込んでなんとか日付越える前に家を飛び出して和真さんの部屋を訪れた。明日、厳密にはあと三十分もしないうちに俺の誕生日を迎える。歳の少し離れた和真さんに少しの間だが一歩だけ近付ける、俺にとってはものすごく重大な日だ。 勝手知ったる和真さんの家の冷蔵庫を開けて図々しくもあるものを確認する。 あれ、ケーキ用意してくれてないんすか? ばか、お前誕生日明日だろ、明日買う予定ですぅ〜! ちぇ、と扉を閉めながらどのケーキにしようかと悩む。ショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキ、フルーツタルト…ケーキの種類なんかろくに知らないが楽しみな気持ちは膨らむばかりだ。 男だからってこんな時間に一人で出歩いてんじゃねーよ。 和真さんはあきれたように声をかけて俺が来るまで読んでいたのだろう雑誌を捲った。 和真さんの言わんとすることもわかる。男で、人並み以上にがたいのいい俺でもなにがあるか分からない。心配をしてくれているのもよくわかるし、うれしい。だが、俺からすると逆にそれが少し嫌だ。子ども扱いをされているように感じて、もし、俺が和真さんと同い年なら、でもそうしたら今みたいに気にかけてくれることもなくなるんじゃあないか。考えたって意味のないことを考えてしまう。 ふいに和真さんがあ、と大きな声を出した。 「仗助、誕生日おめでと」 時計を見るといつのまにか長針が12を越えたところにいた。 さて、と和真さんは立ち上がって言った。 「ほら、どうせ泊まってくんだろ、布団用意するの手伝え」 この一言ですべてどうでもよくなってしまう俺は現金な奴です。 |