マジでいい加減にしてくれと思う。 愛用にしている救急箱の中身を見てそう思わずにはいられなかった。バイト代だってそんなに高くないんだ。隙間の空いた箱をそっと閉じ、頭を抱えた。わかってはいるんだ、原作読んだことあるし?仗助が主人公だから、怪我が多いのもしょうがないのはわかってる。それにしたって消耗が激しいんだよ、絆創膏二か月に何箱消耗するんだよ。カートン買いすればいいわけ? と、言うわけで俺は次の日の朝、薬局へ向かった後それなりに重量のある袋を抱えて大学へ向かった。 原作が今どのあたりなのか、知るすべもない俺は早めに買って備えておくことしかできない。あいつはこの間もヒクくらい怪我をしで来やがったからな。 それにしても朝の眠気ってやつはどうすりゃいいんだろうか。すれ違う小中学生を横目にくぁりとあくびを一つ、噛み殺しきれずもらした。 「あ、おはようございます、和真さん!」 後ろからの突然の声にん?と振り返ると挨拶してくれたのは康一君だった。 「あぁ、康一君、おはよう」 康一君は真面目だなぁ、仗助なんて家出るのギリギリだもんなぁ。 特徴的な髪形を思い出しながら思わず苦笑いが込み上げた。あいつもあいつで一度あの髪形を作るのに一体整髪料をどのくらい消費しているのだろうか。 「和真さんもこれから学校ですか?」 「そ〜そ〜、朝からあるときちーよ、大学行くともれなくクズ率上がるから気つけたほうがいい」 まぁ康一君は大丈夫か。日頃の康一くんの素行を思い返しながら思った。 仗助はちょっと心配だが、なんだかんだと言いつつも意外と真面目に授業もでるし、何より朋子さんがサボりなんて許さないだろう。高卒で就職、なんてこともあるだろうな。 そんな他愛もない会話をし、分かれ道に差し掛かる。康一君たちの通うブドウが丘高校はこの先を真っ直ぐだ。そして俺は右へ曲がらなければ大学へは遠回りになってしまう。名残惜しいが、康一君とはここで別れなければならない。 「じゃ、康一君気をつけてな、仗助にヨロシク」 「あ、はい和真さんもお気を付けて」 ホントに康一君は律儀でいい子だ。 そう思いながら振り返ることもなく分かれ道を曲がって真っ直ぐ進んで行くと、不意に後ろから康一君の叫び声が聞こえ、すぐになくなった。 どうしたのかと思い後ろを振り返り康一君の姿を探す。が先ほどまで康一君のいた場所には、褐色の肌の少年がこちらをじっとりと見つめかえしているだけだった。 見覚えはあった。 エニグマの少年。 スタンド能力はたしか、恐怖のサインを出したものを紙にする能力。 まさか、今、康一君を紙にしたのだろうか。 ゴクリ、生唾を飲んだ。 いや、俺にはどうすることもできない。本編では仗助が無事に助け出してた。俺のするべきことは、ストーリー展開を崩さないこと、だろう。このまま詮索すれば間違いなく彼は俺を襲うだろう。そうなってしまっては万が一にも助かる命が助からない可能性が出てくる。 くるり、と踵を返して、何ごともなかったかのように立ち去らなければ。 俺にできることは何もないのだ。 バクバクと脈打つ心臓に気が付いていないフリをした。 |