じょじょ四部 | ナノ
ちょうど近くに来たからとドゥ・マゴに寄るんじゃあなかった。いや、満席だったのだから相席の許可が出たからって案内されるがままに着いていくんじゃあなかった。だからといって今やっぱり帰りますなんて相手を見て拒否したみたいな、そんなことは出来ない。チキンですみません。チラチラと視界に入る変わった緑のヘアバンドを見る度に早くコーヒーを飲み干して帰りたい衝動に駆られた。




店員が申し訳なさそうに相席を頼むから許可をしたが連れてきた男が見覚えのある顔だとは思わなかった。確かコイツは前に公園で辛気臭い溜め息を吐いていた男だ。変な男だったからよく覚えている。
気まずそうにコーヒーを啜る男をじっくりと観察したが、特に面白くはない。どうせただの一般人だ。
興味半分でヘブンズ・ドアーを現す。反応はない。やはりただの一般人だ。スケッチブックも全ページ描き終わってしまったし、ちょっとした暇潰しだ。康一くんに知られたらまたサイテーと罵られてしまうかもしれないな。

「(ヘブンズ・ドアー!)」

気を失った男の顔に現れたページを一頁ゆっくりと捲った。





はっとして、いつの間にか閉じていた瞼を上げた。いつの間に寝ていたのか、身に付けていた腕時計を確認したが10分も意識を手放してはいなかったようだ。寝不足でもなかったはずだが。ふと視線を感じて横を見ると岸辺露伴が驚いたという顔をしながら穴が開くんじゃないかというほどに俺を見ている。

「お前、未来から時を遡って産まれたのか?」

一瞬、時が止まり、色んな事が頭を巡った。岸辺露伴、スタンド使い、ヘブンズ・ドアー、記憶を本にする。まさか…

「み、見たの…か?」
「…見た?」

見た、という俺の言葉に眉間にシワを寄せた露伴は、驚いた顔から一転して睨み付けるように眼光が鋭くなった。

「オイお前'見た'ってどういう意味だ」
「え、っあ!」

まずい、んじゃないかこれは。『見た』と言うことはつまりヘブンズ・ドアーで『見た』ってことだ。普通ならばここは『見た』ではなく『なんで知っているんだ』と言うはず。今俺は岸辺露伴に遠回しに『私は岸辺露伴がスタンド使いであることを知っています、更にそのスタンドの能力まで知っています』と言ってしまったと同義なわけだ。もし、仮に、俺が岸辺露伴ならば、自分の能力を知っているどこの誰かもわからないヤツをみすみす逃すはずはない。まずいのはここだけじゃない。 見られたということは、俺の過去、つまり前世でありここからいうと未来の事を見られたということだ。ここがジョジョの4部だということ、岸辺露伴が、広瀬康一が、東方仗助が、漫画の登場人物だということももしかしたら読まれてしまったかもしれない。
自分のなかで出た答えは、とりあえず逃げるしかなかった。
飛び上がるように椅子から立ち上がったが、走り出すとほぼ同時に腕を掴まれ、うまい具合に逃げ出すとこは出来なかった。

「あのォ、ええと、その、ですね」
「お前、」

こうなったら手段は一つしかない。

「ひっ、東方仗助!」
「!」

俺だけの魔法の言葉、東方仗助、だ。

「俺、東方仗助の幼馴染み、なんですよ。岸辺露伴さんですよね、アイツから聞いて知ってます、スタンド使いだってことも、能力も」

嘘は言ってない。事実仗助とは幼馴染みだし、岸辺露伴のことは話に聞いた、一応すべて本当のことだ。これなら一応なんで知ってるか、についてはクリアだ。だが漫画の件は誤魔化せない、どうしようか。

「チッ、あのクソッタレか…いや、そんなことはどうだっていいんだ、お前、前世の記憶があるんだろ、それも未来の。是非とも話を聞かせてもらいたいんだが」
「え、は?」
「まあ、座ったらどうだ」

座ったらどうだ、そういいながら腕を離されないということはどういうことだ。逃がさんってことか。
どうやら、最悪な事態は免れた…のか?
大人しく先程まで座っていたテーブルに座るとようやく腕を離された。

「あの、…記憶は、見ないんですか?」
「あのなぁ〜!もしかして僕の事を記憶を読みたがるだけのヤツだと思ってないか?僕が欲しいのはリアリティーだ、僕が今欲しいのは前世の記憶を持った人間の話を聞いたってことを実際に自分で体験するってリアリティーなんだよ!!」

あとに付け加えられた、まあ前世の記憶を覗くのもそれはそれで面白いかもしれないがな。という言葉には蒼白とするしかなかったが、とりあえず危機は去ったようだ。このあとされた質問の雨、いや嵐には流石に堪えたけれども。