古いの | ナノ
「いっ、出口さんって、彼女、とか、いるんすか」

若干吃りつつも興奮気味に質問してきた後輩を、俺は一体どうすればいいんだろうか。
まず第一に意図が分からない、それを知ってどうするんだ、マスコミに横流し?スキャンダルか?多分それ全然話題性ないぞ、誰が万年B級のリカオンズのキャッチャーの熱愛報道に飛びつくんだよ。そりゃまあ、相手が女優だとか人気の女子アナとかなら話は別だけど…。
まあ、結論から言えば

「いねぇけど」

紙コップのコーヒーに口をつけながら答えると名字は「そ、そうですか…」とホッと胸をなでおろしたように勢いをなくした。
何、俺に彼女いねぇのがそんなに安心なわけ、おっさんの俺には負けません、みたいな?若さには勝てねぇよ。

「じゃあ、好きな人、とか…」
「特には…」

名字はもう一度そうですかと呟いてそれきり黙って俯いてしまった。
何故か沈黙は軽いものではなかった。
重たい沈黙ってちょっと苦手なんだよな、試合中とかなら話は別なんだけど、今は原因も分かんねぇし。

「お前は?」
「…はい?」
「彼女とか、好きな子とか」

気まぐれとちょっとした好奇心で聞くと、名字は少し間を置いて、何かを決意したかのように開いていた手を拳に変え、じっと俺に目線を合わせた。
え、何何何、俺なんか地雷踏んだ?

「すんません、俺、今の関係壊したくなくて、ずっと言わないままでいようと思ってたんですけど…!ほんと、っすみません!」

名字の表情は今にも泣き出してしまうんじゃないかと思わせる歪みを見せ、その瞳は水が何重にも覆い被さっているかのようにゆらゆらと揺れている。
なんだよ、何で謝ってんだよ、いつもなら笑って言えるそれも、名字の迫力に気圧され、憚られた。

「俺、出口さんのこと 好きなんです!」

半ば叫ぶように言い放ったあと、名字は逃げるように走り去ってしまった。
そりゃそうだろうよ、男が男に告白して返事を聞くだなんて、拒絶されんのが怖くてできねぇよ。でも、今俺がこぇえと思ってるのは、お前の告白を満更でもねぇって思ってる自分だよ。
ぐしゃり、と飲み干した紙コップを握り潰して俺は今頃後悔なりしている後輩を探すことにした。


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