古いの | ナノ
普段料理をしない私のキッチンからトントンと包丁がまな板をたたく音や、シャリシャリと大根を剥く音が聞こえるようになったのはつい最近のことだ。もちろん料理をしているのは私ではない、料理を作っているのはついこの間から同棲を始めた明王だ。明王とは結構前から付き合っていたのだけど、インスタントやら栄養の偏りそうな私の食生活を見てなんやかんやで気付けば明王は私の部屋に転がり込んでいた。

「おい、出来たぞ」

ひょこりとリビングでくつろいでいる私を呼んで、明王はまたキッチンへ引っ込んだ。気付けばハンバーグらしき匂いが漂ってきて、私はそれに誘われるままに食卓へ向かった。
食卓には匂いの通りハンバーグを始め、様々なメニューが並んでいる。これを明王が一人で作っているのだから、もう何とも言えない。普通逆だよなぁと頭の隅で考えながら椅子に座ると、明王がお茶とコップを持ってきた。ああ、お茶くらい私だって持ってこれたのに。明王はふぅと息を吐いていただきますと手を合わせた。つられて私も手を合わせて二人で一緒に「いただきます」と言えばなんだか妙にくすぐったかった。小学生みたい。
明王の料理はとてもおいしい、どんどんと手が進んでしまう。でも、これでいいんだろうか。やっぱ仮にも明王の彼女だし、女なのだからいつまでも明王にご飯を作ってもらうわけにはいかないだろう。世間体を考えても、やはり少しは私も料理をするべき、じゃないのか。

「あ、明日は、私も料理手伝うね」

ハンバーグを一口サイズに切りながら、明王に言うと、明王はご飯を掻き込んでいた手を止めた。

「いーよ、お前に台所立たれちゃ邪魔になるだけだ」
「いや、でも、」
「なんだよ、俺の作ったメシになんか文句あるのかよ」

そーいうわけでもなくて、と私が言い淀むと、明王は長く伸ばした髪をかきあげた。

「もしかして体裁を気にしてそーいうこと言ってんのか?あのな、俺は好きでお前にメシ作ってやってんだ、お前が体裁とか気にする理由ねぇんだよ。お前俺の作ったメシうまそうに食ってりゃそれでいいんだよ」

少し釈然としないが、明王がいいと言えば、きっとそれでいいんだろう。私には明王に言い返す言葉はないし、現状にも明王の味にも文句はない。「うん、分かった」と素直に頷けば、さっきまで不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた明王がそれでいいんだよとでも言うように笑った。




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