古いの | ナノ
「きれいね、」

足首に違和感を感じて病院へ行った時の事だった。
少し長めの廊下を歩いていたら廊下の壁に寄り掛かっていた白い女の子に話かけられた。いや、会話を持ちかけられたとは違うな、ただ彼女の独り言に自分が勝手に反応しただけだ。

「え?」
「あなたのかみ、きれい、」

長くて、天使みたい。白い女の子は目を細めてそう言った。これはおそらく誉められているのだろう。丹精込めて手入れを施しているこの長い髪を誉められるのは悪い気分はしない、むしろ誇らしいかぎりだ。
きれいだという言葉に返そうと思ったありがとうは白い女の子を呼ぶ看護士さんの声によって遮られた。

「またね」

白い女の子は手を振って名前を呼ぶ看護士さんの方へぱたぱたとスリッパをならし駆けていった。
白い女の子は病院に入院している患者のようだ。
白い女の子の『またね』が頭の中でぐるぐると回る。
どうせしばらく通院となったのだ、また明日も来よう。ここに来ればまた会えるだろうか。



次の日、白い女の子は昨日と同じように廊下の壁に背中を預けて立っていた。
長い廊下の中でボクを見つけると目を細めて「あら、てんしさん」と言って微笑んだ。

「天使じゃないさ、君と同じ人間だよ。その証拠に病気にもなるし、怪我だってする」

ほら、と湿布を貼って簡単に処置をされた足首を見せた。白い女の子はそれを見てふふ、と声を洩らして笑った。

「てんしでも、けがをするのね」

ふふ、ふふ、と小さく笑う。何だかこちらまで笑みがこぼれた。しばらく二人でふふ、と笑っていると昨日のように白い女の子は看護士さんに呼ばれ「またね」と手を降った。

それから数日。ボクらは毎日少ない時間を共有し、笑いあった。笑いあったと言っても普段チームメイトと笑いあうようなものではなく、静かに零れるように微笑むようなささやかなものだった。
一週間程たったある日、明日から通院の必要のなくなったことを告げられた。それは白い女の子と会えるのも今日で最後ということでもある。
足首の怪我は治ったが、心は晴れ渡らなかった。


「あれ、」

いつものところに女の子はいなかった。いつもは女の子が先に立っていてそこに自分が来ていたのだ。用事でもあってまだ来ていないのだと思って、しばらくそこに立っていたらいつも女の子を呼ぶ看護士が自分を見つけて悲しそうに顔を歪めた。
胸がざわついて静まらない。
いやな予感はよく当たる。

「いつもあの子といた子よね、」
「あ、はい」



いやな予感はよく当たる。
ああ、そうか、そうなのか。白の少女はもういない。

ボクは彼女の天使だった。
いや、天使なものか。いってしまう前に会う天使など死神となんら変わらないではないか。
天使だなんて。

病院を一歩出たら、頬に一筋雫が伝った。

天使は神に成れるだろうか。



神になることを望んだ天使
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