古いの | ナノ
誰もいない放課後の教室はいつもよりも随分と寒く感じられた。その中で私はマフラーなどで防寒をして自分の席へだらしなく腰掛けていた。何をするでもなく、薄暗く染まる冬の空をぼんやりと見上げて、明日の事だとか大層どうでもいいことを漠然と考えていた。
不意にパチと音がして辺りがぱっと明るくなった。驚きはしなかった。
一度まばたきをして目を電気のスイッチへやると、電気を点けたのが半田だということがわかる。

「まだ帰ってなかったのか?」

半田は呆れるように言った。半田だってまだここにいるじゃない、と返せばオレは部活帰りだよ、と口を尖らせて言われた。なるほど、通りで汗をかいているわけだ。

「どうしたの?」
「え?」
「帰らないの?忘れ物?」

首をかしげて聞いてみた。
半田はあー、と言いづらそうに頭を掻いた。

「いや、下駄箱みたら名字の靴がまだあったから、気になって」

そうか、私なら絶対放置して帰る。いや、むしろ、靴がまだあるなんて気付きもしないだろう。
ガタンと音をたてて立ち上がった。

「帰んの?」
「うん、帰る」
「ふぅん」

半田と電気のスイッチの間を通って廊下に出た。廊下は先程いた教室よりも寒く、窓へ近づけば冷気が容赦なくそちら側の肌を刺激する。
パチと音がして教室の明かりが消え、半田が出てきた。ドアを閉める半田に帰るのかと聞くと、別になんも用ないしと返ってきた。
それきり、私と半田は会話をすることなく下駄箱で靴を変えた。校門を出たところで半田に手首を掴まれた。

「何?」
「く、暗いから家まで送る!」

私はその場で何度か控えめに断ったが、半田は有無も言わさぬと言うように私の手をとり、歩きだした。
数分歩いた所で、半田が私の方へ顔を向け、先程から離すタイミングを逃して繋いだままの手を強めに握られた。

「名字手袋は?」
「あ、今日忘れちゃって」

私が言ったあと、不自然な間を置いて半田は前を向いてそっかと呟いた。
呟いて、手をぎゅと握り直して、私の手ごと半田は自分の上着のポケットへ突っ込んだ。

寒いな、と言った半田の耳は寒さの所為か赤くなっていた。

なんだか冬なのにあつい。


手袋忘れた
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