古いの | ナノ
だらだらと、汗が首筋を流れる。この部屋にエアコンはない。あるのは壊れて羽根が回らない古い扇風機のみ。壊れた扇風機なんてあったってなんの意味もない、ただ邪魔なだけだ。かろうじて涼をもたらせるもの、団扇があるが、気温も高いし、湿度も高いこんな日中に団扇を扇ごうという気にはならない。だが、ただごろごろと畳に寝転がっても汗は首筋だけでなく額やこめかみを容赦なく濡らしていく。どうすればいいと言うのだ。ぐい、と左手で顎の下を拭った。
遠くで廊下を走るような振動が耳に伝わる。こんなに暑いのによく走る元気があるなぁ、さすが子供。とぼんやり考えているとドタバタと廊下を走る音が近づいてくる。あ、来る。と思ったと同時にスパンッと襖が開いてピンクの髪が現れた。お前か。

「名前!海行こうぜ!!」

正直に言おう。いやだ。
こんな狭い部屋でさえ暑いのに海って、馬鹿じゃないの。倍は暑いわ。
それにあんた、海なら年中楽しんでるじゃない。
額に張りついた前髪を掻き上げながら、言ってやると、どうでもいいけどそんな大股開いてっからパンツ見えてんぞ、と柱にもたれかかりながら指摘された。
そうか私のパンツはそんなにどうでもいいか、そうかそうか。
条介くんやい、言葉のキャッチボールができてないぞー、と脳内で呟きながら上半身をお越し、指摘されたように大きく開いていた脚を閉じて捲れていたスカートを払って伸ばした。

「これで満足?」

といつの間にやら部屋に入りこんでつきもしない扇風機のスイッチをガチガチと押している条介に投げ掛けた。

「つかねぇな、壊れてんじゃねぇか?」

うん、だから言葉のキャッチボールをさ…はぁ、もういいや。尚もスイッチをガチガチと押し続ける条介を視界にいれて、あぁそんなにやったらまた壊れてしまうんじゃないかと壊れた扇風機にいらない心配を胸に抱いた。
扇風機をつけようとするのを諦めたのか折り曲げていた脚を真っすぐに伸ばし、片足を上げ…、

「ちょ、条介っ!」
「おら、」

バキッ、とは違う効果音を出して吹っ飛んだ扇風機。
暑くて出た汗とはまったく別なイヤな汗が額に浮き出た。

「…条、介、あんた、今何した」
「え?蹴った」

違う、あんたのは蹴ったじゃない“蹴り飛ばした”だ。
完璧壊れた。あああ、修理すればまだ使えただろうに。ああああもったいない。ああああああ。
蒼白となっているだろう私を放って、条介は吹っ飛んだ扇風機を起こしてスイッチを押した。
間をおいて、変な音を出して回り始めた羽根。しばらくすれば何の問題もなしにぐるぐると羽根は回り、前にいた条介の髪を揺らしていた。

「よし、動いた!」
「…な、おった」

四つんばいになって条介の横まで行けば条介が扇風機の頭を私の方へ向けてくれた。髪が揺れて顔に風が当たる。
直っている。

「条介パネェ…」
「だろ!」

別に褒めて…あ、いや褒めたのか。
しばらく二人で扇風機で涼んでいると開いていた襖からお母さんが入ってきて、あら扇風機直ったのね、なんて言ったあとスイカを二人分置いていった。
スイカを食べている途中で条介が、あれ、何しに来たんだっけと言ったが、生憎と扇風機の傍を離れたいとは思わないので何も言わないことにする。



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