古いの | ナノ
まさに、天国と地獄が同時にやってきた。そういう心境だった。
くしゃりと手で握り潰した形の悪い四角い紙に書かれた数字と黒板に行儀よく並べられた数字の窓際の一番後ろの席は何度繰り返し見比べても間違いなく一致している。数字が反対だとかそういったこともない。正真正銘、オレの席は窓際の一番後ろだ。これは天国だ、一番後ろは授業中指される確率が最も低く(オレ比)さらに暖かい陽射しが降り注ぎ心地いい安眠をもたらす教室一の安らぎの場。問題は隣だった。嫌いなやつ?いや、それならまだましだった。寝てりゃ視界にはいんねぇし。
ガタッとイスの引かれる音がして早々と席を移動したオレの隣に人が来たようだった。

「わ、隣市原じゃーん!よろしくー」
「あ、名字…よ、よぉ」

名字って…、まさに地獄だ。
全員の席が入れ替わり、いつの間にか授業が始まっていた。
年老いたじいさん先生の授業だ。クラスの何人かはすでに悠然と睡眠学習の体勢である。いつもならオレもその仲間入りを果たしていたところだが、この席ではそういうわけにはいかなかった。

「あー、市原、今先生どこって言ってた?聞き逃しちゃった…」
「…っ!」

ぐっと上半身を近づけてきた名字に息を飲んだ。
ち、ちっか、い…って!

「ひゃく、じゅういち、の、三行、目…」
「あ、ここか、ありがとー」

すっと名字がオレから離れていく、その際に多分名字のシャンプーの匂いがして心臓がキュッと紐で縛られる感覚に陥った。
うわ…、苦しい…。
ちら、と横目に見た名字にまた心臓がキュッとなって、やはりこの席が地獄のように思えた。
マジ、何の拷問だよ…。

授業が残り15分程になって、多くの生徒が机に伏せ始めるのを視界に捉えながらオレは配られたプリントを教科書と格闘しながら解いていた。しばらく何事もなく時間がすぎて名字が心なしかうとうとしだし、遂に腕を枕にして眠ってしまった。軽く、オレもこれで気が抜ける、と思って眠ってしまった名字へ、視線を向けた。

「!」

オレはこの時間二度目の拷問に直面してしまった。
腕を枕に顔を俯せているものだと思っていたが、あろうことか、名字は寝顔をこちらに向けて寝ていた。
オレの顔に熱が集まる。
耳が熱い、緊張しすぎて、呼吸の仕方も、心臓の動かし方も忘れてしまいそうだ。
拷問のような数分が終わり、休憩時間、隣の席には仲の良いクラスメイトが座っている。名字は他の女子のところへ行ってしまった。

「で?」
「…何」
「名字と隣になった感想だよ」

そいつは声を密かにして言った。
好きなんだろ。

心臓がいくつあってもたんねぇよ!


いくつあっても足りない
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