古いの | ナノ
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カリ、と最後の一文字を書き終えて私は座ったまま長時間の静止より引き起こされた筋肉の硬直を猫のようにぐぐ…と腕を前にやり伸びをした。私は事務系の仕事向いてないからなぁと心の中でぼやきながら、誰も居ない図書室を見渡した。まあ、私が見渡せる限りで誰も居ない、なのできっと奥には司書さんもいるんだろう。
チラ、とまだ手の付けられてないレポート用紙を見て、今まで放置してきた結果だと頭で理解していてもはぁとため息が口からこぼれそうになる。それぐっとこらえて、放りなげていたシャーペンを再び手に取った。



それから30分たった位か、図書室の扉開く音が聞こえた。
私は顔を上げず黙々とレポートを綴り続けた。
ふいに前の席がギ、と音を立てて誰かに座られた。

「勇気」
「あ、気散らしちゃいまいた?」

わりと新しめの文庫本を片手に持った勇気がすみませんとでも言いそうな顔で座っていた。ううん、大丈夫と伝えれば良かった、とふわと笑った。

「それレポートですか?」
「うん、そう」
「学校で、ですか?パソコンじゃなくて」
「うーん、何かネットで探したんだけどなくて…」

まあ大体終わったからそろそろ家でやろうと思っていると言えば、勇気は読んでいた本を閉じて身を乗り出して聞いてきた。顔が近いなあと思ったが、一応付き合っているのだし、構わないか。

「こ、この後って空いてたりしませんか?」
「レポートの提出はまだ日があるし、…うん、空いてる」
「じ、じゃあ引っ越しの片付け手伝って下さい!」

引っ越しの片付け、そういえばこの間アパートに引っ越して一人暮らしを始めたと言っていたような気がする。片付けは嫌いではないし、大事な年下の彼氏の住む家を確認するのは年上彼女の役目、とよく分からないことを思い、私は二つ返事で了承した。



「あれ、何だ、結構片付いてる」

ひょいと一部屋一部屋を覗いてみたがどの部屋もキレイに片付いていて引っ越しの段ボールは見当たらない。キッチンから勇気に麦茶でいいかと聞かれ私はああうんと曖昧な返事で返した。これはどうゆうことだ。私は引っ越しの片付けを手伝いに来たのではないのか。

「勇気ー」
「あ、その辺座ってて下さい」
「あ、うん」

勇気に促されそこにあった低めのソファへ座った。ちょっと経って勇気が麦茶を二つもって来たので一つを受け取り勇気の座るスペースを空け、一口飲み折り畳み式のテーブルへ置いた。

「何ですか?」
「あ、いや。部屋、片付いてるよね」
「そうですか?普通だと思うんですけど」
「いや、そうじゃなくて、私は引っ越しの片付けを手伝いに来たんだったような気がするんだけど…」

ぐるっと部屋を見渡していた勇気の首が斜め後ろを向いたまま止まった。オーケー。どうゆうことかは大体分かった。
ギリギリと音を立てるようにぎこちなく首を正面に向け、勇気はなんとも言えない顔をした。

「あー、その、すみません、引っ越しの片付けは、ただの口実で…、少しでも先輩と一緒に居たくて、その、嘘…吐きました」

すみません、と絞りだすときゅうんと鳴く犬のようにうなだれた。その姿に少しだけときめいた、とかそんなの言わないけれど。
別に口実なんてなくったって来ないかと言われれば断ったりしないのに。まさかまだ付き合ってる感覚ないとか?三年も断ってるのに?それだけはないと信じたい。

「うん、いや、別にいいけど」
「じっ実は、先輩に言いたいことが、あ、あって!」

勇気は俯いていた顔を勢いよくあげ唐突に声を荒げた。ソファから床へ正座で座り、顔を耳まで紅潮させ、私をじっと見つめる。つられて私も開き目だった足を閉じて、話を聞く態勢に入った。

「名前、さん!」
「は、はい」
「いっ一緒に!お、オレと一緒に暮らしませんかっ!」




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