古いの | ナノ
隣の席の福富くんはとても暑苦しそうな人間だ。なんていうか、福富くんのことは何も知らないけれど、イメージというか、雰囲気というか、運動部の部長ってあたりが私にそういう風に思わせるのかもしれない。あと太い眉毛だとか。威圧感もそれはもうすごい。鋭い眼力とか身長が高いからなのかもしれない。あと太い眉毛だとか。
対して私は文化部所属のパッとしない女子生徒D、とでも言えばいいだろうか。いやもはやDどころじゃないかもしれない、KとかLとかもっと後ろの方か。顔もパッとしなければ何かこれといった抜きん出たところがあるわけでもない。本当に同じクラスにでもならなければ一生知ることも関わりがなければ覚えていることもないような私だ。
と、説明まがいのことをしてみたが特に何かが始まるわけでもなんでもない。本当に何もないのだ。
もうすぐで六限が終わる。また、なんでもなく、何が始まるでもなく、私の1日は終わっていくのだ。そしてその繰り返し。
へ、ぐしゅんっ!
未だ暖房の付かない教室の空気は私の体を冷やした、のかは分からないが私はかわいくもないくしゃみを一度してグズリと鼻を啜って癖のように鼻の下を擦った。生憎ポケットティッシュは持っていない。
授業終わりのチャイムが鳴って、ほとんどの生徒が授業道具を机の中や鞄にしまい込むと、先生は呆れたように終了の挨拶を終えて教室を出ていった。
やれやれ、と私も教科書の類いを鞄に片付ける。ぐしゅん、ともう一度くしゃみをした。
ぼんやりとしていると終礼すら終わってしまったようで、周りは荒々しく椅子を机の中に納めたり、立ち上がったそのままに、部活に足を走らせて行っている。私はというと、今日は部活の休みの日なのであとは帰るだけだ。
隣の席から椅子を引きずる音が聞こえて、ああ、そうか、福富くんも部活かぁとぼんやり考えると、パサリと机の上にポケットティッシュが投げつけられ、ふいに背中が温かくなった。ん?

「あまり体を冷やさない方がいい、風邪は引きはじめが肝心だ」

優しく私の肩に手を置いた福富くんはそう言って教室から出ていった。
私の肩には私には随分と大きなカーディガン。
次第に温まる背中に何かが、始まったのかもしれない、と思わざるを得なかった。



何かが始まる
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