古いの | ナノ
音楽はあまり聞かない。どんなに綺麗事を並べたラブソングよりも、自転車で走っている時の風を切る音の方が心地よかった。服にこだわりは特にない。どんなに格好のいい装飾の付いた服も自転車に乗る時は全てが邪魔になる。彼女はいたこともない。自転車にかまけてどうせ疎かになるし、急を要して必要だとも思えなかった。今までを振り返ってみて、自分の全ては自転車を中心に回っているのだ、と改めて思う。
だがどうだろう、周りの女子は俺が思うにこの顔のせいか、俺のことを女慣れしたプレイボーイだと思っているように思える。確かに興味はないことはなかった、いや寧ろ興味津々だ、だが俺には自転車の方が大切で、処理くらいなら媒体を介せばそれで充分だった。
今日こそ、今こそはっきり言わせてもらうが、俺には女性経験は皆無だ。恋なんか小学低学年以来だ、そもそもあれは恋といって正しいものかすら定かではない。

「嘘じゃないんだ、ホントに名字さんが好きなんだ」
「いやー、いいよそんなの、誰にでも言ってるんでしょ」

照れたように笑った名字さんは提出物があるから、と行ってしまった。絶対にお世辞だとか冗談だとかそういった類いに思われた。肩を落として名字さんの去った方を眺めていると靖友と尽八が珍しく肩を並べてニタニタと面白いものを見たとでも言いたげな笑みを浮かべてやって来た。帰ってくれ。

「なァんだよ新開、フラれちゃったワケェ?」
「別に断られたわけじゃないさ」
「だが本気にとってもらえていなかったな」
「それは、…そうだけど」

うりうりと右から靖友に肩を組まれ、反対側では尽八がキリリとした顔で格好をつけている。いや、俺はまだ終わってないですから。


終わってない
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