古いの | ナノ
※大体高2から大学生くらい


目の前の男には確かに見覚えのある顔立ちだった。
黒く日に焼けた肌、生意気で気の強そうな目付き、どれも記憶よりも大人びてはいるが変わっていない。唯一変わっているのはぐっと伸びた身長と、上から降りてくる視線だけだ。
そうだ、中学生のころ三年間同じクラスだった

「倉間」

多分あってる。
指をさして名前を呼ぶと倉間は眉間にシワを寄せて顎を上げた。つまり見下されているわけだ。なんだ、中学生の頃は私よりも身長低かったくせに。私のこと見上げてたくせに。随分といいご身分だなコノヤロー。
私が下から睨み上げると倉間は「あ、」と声をだした。

「名字名前」

同じく私を指さした倉間は私のフルネームを口にした。
まさか、こいつ私のことを忘れていたんじゃないのか。いや、私も今日今ここで会うまで忘れていたわけだけれども。それでも私は一目見て気付いたっていうのに。一目見て気付いたついでにアンタへの恥ずかしい幼い恋心まで思い出しちゃったっていうのに…!薄情なヤツだ!
わたしが唖然としていると倉間は私をさした手を自身の後頭部へやって言った。

「なんつーか…縮んだ?」
「…」
「てか変わりすぎてて一瞬気付かなかった」

いうに事欠いてこの鬼太郎…!
私が縮んだんじゃなくて、アンタが伸びたんだよ!変わりすぎててって何、化粧してるってこと?ケバいってこと?そりゃケバくはなりますよ!中学生の頃のツヤツヤ肌と比べるなよ!
薄情どころじゃなかった、千年の、いや数年の恋も冷めるわ!
密かにわなわなと震える私を知らず倉間は平然と「今暇?」と聞いてきた。暇じゃねぇよ色黒鬼太郎と、言いたいところだったが、口は私の意思とは裏腹に倉間の誘いにのっていた。おい、私の口マジか。

жжжж

倉間に連れられて着いた先は近場の喫茶店だった。
かわいいバイトのウェイトレスの子が、カウンター席へ座る私達二人分のコーヒーを持ってくる。ウェイトレスかわいいなぁ、と一連の流れを眺めていると倉間に「何、あぁいうの好みなわけ」と小馬鹿にするような顔でいわれた。

「はは、どうでしょうね」
「ま、どうでもいいけどな」

じゃあ聞くなよ。

「…」
「…」
「…」
「…何か喋ろうよ」
「…んー、あぁ」

すっ、と一口コーヒーを啜って倉間は口を閉ざした。
一体なんだというんだ。そっちから誘っておいて、久しぶりに会ったから思い出話でもするのかと思えば倉間はだんまり。私に何か話題があれば盛り上がりもするのだろうが生憎最近特におもしろいハプニングも起こっていない。
沈黙が重い。
何かおもしろい話題…!と必死に思案を巡らせたところでバッグに入っていた携帯が鳴った。
どうせメルマガか迷惑メールなんだろうと放置しようとすると倉間が携帯鳴ったぞとようやく口を開いたのでこれを話題の切り口にするべく、私は言われて初めて気付いたかのように反応し、メールを開いた。
あれ、なんで私こんなに気を使ってるの。
メールはバイト先の先輩からだった。
最近よくメールしてくるちょっと鬱陶し系の先輩(♂)。正直このメールは放っておいて構わないけれど、今返さないと多分返信を忘れてしまうので適当に返して携帯をカウンターへおいた。

「男?」
「へ?あ、まぁ」
「ふーん」

倉間はそう言って前を向いて頬ずえをついた。
二度目になるが、一体なんだというんだ。
何なの?どうしたの?数年の年月の間に倉間はコミュ障になったの?
いや、コミュ障になったのなら私に声さえ掛けられないはず。
ふいにカウンターの上の携帯が震えた。どうせまた先輩からだろう。バイブレーション機能のお陰で悪目立ちするそれに手を伸ばしたが、褐色の大きな手によって阻まれた。

「…倉間?」

倉間の手が私の手を包むように覆っている。
顔をあげて名前を呼んでみたが倉間は触れあった手を見つめたまま反応がない。
私も同じよう手を見つめてみるが倉間の意図は読めない。

「オレ名字のメアド、知らねぇ」
「そう、だっけ」
「ん」

倉間はズボンのポケットから携帯を取りだし早く受信しろよと急かした。
ちょっと待ってよ、と焦って赤外線受信を選択する。

「赤外線どこ?」
「あ、ここ」
「変なとこ付いてんな」

コツと携帯をくっ付けあってお互いに交換し合う。
友達と初めて交換するみたいな気持ちになって私は少し笑った。

「そろそろ出るか」
「え、まだ全然飲んでない!」
「どんくせぇ」

グイッとカップをあおると倉間はケラケラと笑った。
あれ、笑った?
機嫌良く笑う倉間は中学のころよりも大人びた笑いかたで
さっきまでは機嫌が悪かったのだろうか。
さっさとレジへ向かう倉間へ着いていき自分の分の代金を出そうとバッグに手をかけたが倉間が先々と会計を済ませて店から出てしまい財布を出せずじまいとなってしまった。
えっ、えっ、コーヒー代

「え、ちょっと倉間」
「何だよ」
「コーヒーいくらだった?」
「ただ」
「はっ?」

小銭がいくらあったか確認しようと財布を開いたが「ただ」と言う倉間に財布を取り上げられ乱雑にバッグの中に投げ込まれてしまった。
ただって、そんなばかな。
いや、出すよ、そんなに私は貧乏に見えるか、コーヒー代くらい出せるわ!

「だからオレの奢り!」
「えええ、いいよ、悪いよそんなの」
「いいんだよオレが誘ったんだし、オレが奢りたかったんだよ、甘えとけ」

大股で歩く倉間に必死に着いて歩くと、それに気付いたのか少しゆっくり歩いてくれた。
なんだか、私の知らない倉間がさっきからいるんですけど。
奢りだなんて、きっとあの頃の倉間なら絶対しなかっただろうし、今だって、歩幅を合わせるなんて…。
何故か意識してるこの緊張は中学の頃と違う行動を倉間がとるからだ。
聞き覚えのあるバンドの曲が近くで聞こえ、倉間が立ち止まって携帯を取りだした。

「あー、わり、駅まで送って行こうと思ったんだけど神童から呼ばれちまった」
「えっ、いいよいいよ!そんな!」

奢ってもらってさらに送ってもらうなんて!
てかなんか今倉間と一緒にいたらなんかあれだよ、あれなことになっちゃうよ。
本当に申し訳なさそうに引き返して行く倉間に別れを告げて私は歩き始めた。

「名字!」

少し歩いたところで名前を呼ばれ振り返った。
予想なんてしなくても分かる倉間だ。

「何!」
「お前、きれいになったよ!」

叫ぶように言って倉間は走って行ってしまった。
言い逃げなんて卑怯じゃないか。



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