古いの | ナノ
自分の派手な赤い髪をぐしゃりとかき混ぜて、うーんと唸ったてみたが、現状は何も変わらない。目の前には白紙のプリント。欠けた消しゴム。
まったくもってさっぱりだ。
机の隅に開かれた教科書の数字とアルファベットの羅列に目を通してみても、まったく頭に入らない、理解ができない。
くるりとシャーペンを回して、そのまま頭を掻いた。

「あー!分からん!自転車乗りたい!」

そもそもなんで自分はこんなことをしているのか。いや、まあ課題を忘れてしまっていた自分が悪いのは分かっている。だが、自分はこんなことよりも自転車に乗りたい。
この課題を言い渡された時は最悪誰かに教えてもらうなりしてもらおうと思っていたが、仲のいいクラスメートは部活へ行ってしまったし、この際誰でもいい!と思った時には教室には誰もいなくなってしまっていた。
なんちゅーこっちゃ、こんなことならトイレなんぞ行くんやなかった。
ともかく、この目の前の宿敵を自分一人で片付けなければならない。まったく分からんけどな。
ギロリギロリと教科書とプリントを睨み付けるが一向に答えは浮き出てこない。
あかん、これ今日自転車乗れへん…。

「あれ、鳴子くん?」
「んぁ、名字…さん?」

名字さんはつかつかと上履きを鳴らして、自分の机の前に立った。パチパチと長い睫毛を揺らして、机のプリントに目を通すと「課題?」と自分へ聞いた。

「え、あ、せやねん、課題出されてもうて…」
「そういえば授業中先生に言われてたね」
「おん…、あ!せや!名字さん得意やったりせぇへん?」

勢いよく身を乗り出すと、名字さんは驚いたらしく背中を反らして「得意というほどじゃないけど…」と言いつつも優しく丁寧に教えてくれた。



「そうしたらここのxが…?」
「ええっと、…こうか!」

汚い自分の字が紙の上で踊る。今までにないほどにシャーペンの頭がゆらゆらと揺れた。得意やない、ゆうて、名字さんめっちゃ教えるんうまいやん。名字さんのソプラノが耳に響いて心地いい。
残りの問いは一問。名字さんは丁寧に、解き方を教えてくれるが、この時間が終わってしまうのは正直名残惜しいと思った。
名残惜しい…?
名字さんは自分の手が止まっていることに不思議に思ったのだろうか、自分に声を掛けた。

「…鳴子くん?」
「うぇ!!?なん、なん、なんやねんこら!!っあ!ちゃう!ちゃうくて!」
「な、鳴子くん?」
「あぁあ、何でもない!ほら終わり!こんだけやりゃ最後の問題間違うとっても平気や!!」

何に焦っているのか自分でも分からぬまま、空いている所に適当に検討違いの公式を書いてシャーペンを机に叩きつけた。名字さんは目を丸くして驚いているが、驚いているのは自分だ。名残惜しいなんて、ただのクラスメイトに使う言葉ではないだろうし、自分で自分の気持ちに気付けないほど鈍感ではない、つまり、そういうことだ。
バクンバクンと心臓がうるさい、まるで数十キロを自転車で全速力で走りきった後みたいだ。

「あー、あの、えっと、あとはもうプリント出すだけやから、名字さんホンマおおきに!!」

ガサガサと薄いペンケースにシャーペンと消しゴムを無造作に突っ込み、さらにそれをカバンへ放り入れ肩に背負った。
グシャリと乱暴にプリントを掴んで、足早に教室を出ようとした。

「鳴子くん」

急に呼び止められ、首だけを向けると名字さんはニッコリと笑っていた。片手を左右に揺らしながらバイバイ、と。

「部活頑張ってね」

顔から湯気でも出ているんじゃないかと錯覚するほどに顔に熱が集まった。
なんで…、普通の挨拶やん。なんでこんな胸が苦しいん。
誤魔化すように大声で「おん!」と返事をすると名字さんは「うん、また明日」と言った。

「おん、また明日!!」

名字さんに負けないようにとびきりの笑顔をしたつもりで、名字さんに手を振って廊下を走った。階段をジャンプして飛び降りながら、きっと今、この派手な髪と同じ顔してる、と思った。いつか、名字さんも、同じ色に染めたるねん。



赤く染めてあげるよ
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