古いの | ナノ
「迅くん、迅くん!」

突然田所から甲高い声がして、ギョッとして見ると、田所はクルリと首だけを後ろに向けて下を向いた。同じように田所の背中を見るように目線を下げるとやたら小さな女子が、輝かんばかりの笑顔で田所の名前を呼んでいる。

「おう、どうかしたか」

どうやら確かに田所の知り合いらしく、当人も快く返している。まあ、“迅くん”って呼んでるくらいだから、仲もいいんだろう。じゃなきゃおかしい。

「あっあのね、迅ママがこれ持ってけって」

これ、と差し出したのは茶色い紙袋。

「なんショ」
「んー?」

紙袋を受け取った田所はガサガサと袋を漁って、あぁ、と声を漏らした。田所が袋を開けた瞬間、パンのいい匂いが香ったから、おそらく中身はパンの類いだろう。

「ど、どうせお昼代ないだろうから、って」
「あー、まあな」
「うん、それだけ、じゃあね」

くるりと踵をかえして帰っていく彼女を目で送ったあと田所はモシャモシャと袋の中身を食べ始めていた。
昼飯じゃなかったのか。
変に歪なパンを咀嚼する田所に一つくれよと手を差し出してみたが、軽くぱしんと払われてしまった。

「食い意地はってんなぁ」
「こんなまっずいパン人にやれねぇっての」
「はぁ?」

店のもんじゃないのかヨ、声をかけると田所は鼻で笑いながらこんな形の悪いもん店に出せるか、と言った。

「これはアイツが作ったんだよ、見りゃ分かる」

先程よりも間違いなく機嫌の良い友人を気色悪いと思いながなら俺は思った。ははあん、なるほどな。

「…田所っち」
「なんだよ」
「お前俺が思ってたより青春したてたんだナ」

はぁ?と声を上げる田所の太ももを軽く蹴ると思ってもないくせに、いって!と声を荒げた。
別に腹立つとか、思ってないショ。


おいしいパン食べたい
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -