古いの | ナノ
好みのタイプが特にあったわけではないが、一目見た時、好みだ、と感じた。風体はいわゆる清楚系であるし、見た目からして頭のいいようにも見えたが、かといってけしてお堅い真面目ちゃんというわけでもなく、どこにでも居そうな物静かな子、それが名字名前だった。
同じクラスではない。どうにかして接点を作ろうと翻弄してみたが、なかなかうまい具合に繋がりを持てない。仲のよい女子はどちらかといえば派手目な子が多いし、つまり、彼女とは正反対で、女の子づてに接点は作れなかった。はっきり言おう、手詰まりだ。頭を抱えるほどに。
昼時に自販機で買った紙パックのジュースをズルズルと啜りながら外を見ていると、ちょうどよく名字さんが通りかかった。ラッキーだ。友達とベンチでお弁当を食べるようだ、彼女の持っているそれは手作りだろうか。手作り弁当、考えただけでも妄想が膨らむ。付き合ったとしたら、弁当は共に食べるだろう。そしてその共に食べるだろう弁当は名字さんの手作り、「東堂くんの口に合うか分からないんだけど…」心配はいらない、名字さんの作ったものならなんだって美味しく食べるさ。「東堂くんっ」

「ふふふ、なんてな」
「何一人でニヤニヤしてんだよおめぇは」
「む、荒北」

背後で聞こえた声は荒北だった。荒北は、買ったばかりであろう紙パックのジュースにストローをさして一口ズルリと啜った。ストローを口から離すと俺の横に立って外を同じように眺めた。

「何見てンの」
「ふふ、いや何、ちょっとな」
「あ?あれ名前じゃねぇか」

な ん だ と ! ?
思わず荒北の方を向いて固まると、荒北は怪訝な顔をしてこちらを見つめ返した。
コイツ、今、名字さんの‘名前’を呼んだのか…?名前で呼ぶような仲なのか?名字さんと?荒北が?あり得ない。

「あ、荒北、名字さんとの関係は…」
「はァ?腐れ縁みたいなもんだろ」

神は俺を見捨ててはいなかった!
荒北と名字さんの関係はこの際男女の仲以外ならばなんでもいい。俺はどうにかして名字さんとの接点を繋げたかった。荒北の肩を乱暴に揺さぶり、名字さんの情報を聞き出し、恥を忍んで荒北に彼女を紹介してくれと頼み込んだ。察しのいい荒北は俺が名字さんに好意を持っているということをすぐに理解し、声を荒げた。

「はァ!?いっみわかんね、お前あんなのがいいのかよ!?」
「あんなのとは何だ!名字さんに失礼だろう!」
「あー、…いや、お前がいいならいいんだろうけど、…じゃあ呼ぶぞ」
「は」

何を言っているのだと、荒北を見たころには時すでに遅し、荒北はいつもより大きな声で喧しく彼女の下の名前を叫んだ。待ってくれ!まだ心の準備が!と思いつつも期待を込めて名字さんに視線を落とすと、名字さんがこちらを見ている。隣の荒北が呼んでいるのだから当然ではあるのだが、思わず自分を見ているのではないかとドキッとしてしまった。
荒北を視界に捉えたであろう彼女は、友達と話している時のような笑みで親指を立てた拳を首の前でスライドさせた。
瞬時には理解できなかった。彼女はその動きの意味を理解しているのだろうか。
荒北をチラリと見てみると荒北は中指を立てていて、なんだこの状況は。
荒北は舌打ちをした。

「チッ、アイツ口悪いんだよ昔から」

ストローの口を噛み潰しながら荒北はじゃあな、と行ってしまった。
もう一度名字さんを見るとなにもなかったかのように友達と談笑している。なにがなんだったのかよくわからなくなってきたが、とりあえずこれだけは言えるだろう。
これがギャップ萌えというやつか。
火照る頬を手で扇ぎながら静かに思った。


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