ビーズのカーテンの向こうで、お母さんが蕎麦を湯がいている。お腹は今にも背中とちゅうしそうなぐらい減っているけど、大丈夫。まだ待てる。でも雀の涙ぐらいは眠たくなってきたかもしれない。寝返りを打つとソファが常套句のようにきしんで、ぶつかった隣の温もりがソファから落ちた。

「...ゆうき...」
「ごめん悠太、おいで」

ホットカーペットにもろに衝突したらしい。上唇を食み、睨んでくる悠太に両手を伸ばして、引きあげた。

「...なんでこんな狭いソファに二人で寝るの?」
「悠太が嫌がらないから」

案外的をついた理由だと思う。

「なにそれ、じゃあ嫌がっちゃおうかな」
「いいけど、離さないよ」

ぎゅう。悠太の体と向かい合わせに密着する。体温が全身につたわってきた。ひとりがいかに寒いかよくわかる。そばにある首筋から、肺いっぱいに悠太のあったかい匂いを吸いこんだ。今日は寒くて寒くて、空に白く浮上する陽の匂い。

「ゆうた...おやすみ」
「ちょっとゆうき。まだお蕎麦食べてないでしょ?」
「ちょっとだけ...お蕎麦できたらおこして」
「こら」


目を完全に閉じてしまうと、ついに観念したのか悠太は俺の腕の中に収まった。そっと手が背中に回ってきたなと思ったら、散々ためらった末に服の裾を掴まれた。きゅん。
下敷きにしている右半身がちょっと痛いけど、側に優しくて愛しい湯たんぽがいるから全然苦じゃない。こうやって今年は悠太と終わって、来年も悠太と始まる。再来年も、そのまた先も、きっとそう。ずっとずっと、


そうして二人にやって来るのが、同じ朝でありますように。



title:花畑心中


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