12.05.21 ss『太陽の指輪』 (365)
※私は大阪で観測しました
※記録ではなく捏造小話だと思ってください
《…ですので、絶好の観測日和となるでしょう…》
響きの良い声でアナウンサーが宣言した。眠い目をこすりながら画面を眺める。ずらりと整列する晴れマーク。
「見ようよ」「やだよ」「なんで」
「だって俺達専用めがね持ってないじゃん」
「買わなくてもいいって言ったのは祐希でしょ。要は高いの買ったって」「流石ですねかなめがねくん」
今朝のおかずは目玉焼きだ。つやつやと主張する橙色。あ、いいこと思いついた。お前にはマヨネーズがお似合いだ。ど真ん中に「どーん」
少しいびつなわっかの出来上がり。
「ほら悠太、金環日食」
「…ほんとだね」
溜め息なんかついちゃってもう。幸せにしてあげないよ。
*
そのまんまずるずる攻防戦を繰り広げていたら、完全な輪になる予定時刻を過ぎてしまった。そしてピークを過ぎたとたん雲が流れだした。なかなか空気の読めるやつだ。
「これなら見てもいいんじゃない」「駄目です。裸眼だと角膜が傷つくんです」「悠太、いい加減機嫌なおしてって、ばっ」
「わっ…、」
悠太の手を無理矢理引っぱって窓際に寄る。
いちめんの曇り空が、そこだけ縁取られていた。
歪みのないリング。
地上にあるどんな黄金も目じゃない。これはきんいろという色のあるべき姿だ。
美しいと、思った。
「俺から見えるあれ、悠太のものだよ」
「…プロポーズみたい」「うん、そう」
今日はとくべつな日。だからこんなクサイ台詞も言えちゃう。
流れの速い雲のなかに、俺達のシークレット・リングは静かに綴じ込められていった。